約 514,073 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1446.html
アンジェラスの愛を受け入れる。 こうなってしまったのもの俺の所為だ。 アンジェラスにとってこの罪とは愛情表現だ。 だから俺はこの罪を受け入れる。 「俺は愛してるよ、アンジェラス」 「ご主人様!」 アンジェラスの奴は俺の顔に飛びつきキスしてくる。 しかも狂ったかのように。 ちゅううっ…れろっ…くちゅくちゅくちゅっ…… 「…んふ…ん…じゅる………!」 「……んぅ………」 激しく唇同士ぶつけるアンジェラスと俺。 でも人間の俺に武装神姫のアンジェラス。 身長差が違うし唇の大きさも違う。 それでもアンジェラスは一所懸命にキスしてくる。 いや、キスというよりディープキスだ。 「ご主人様は私のモノ。この世の中でたった一人の…」 「………アンジェラス…」 「たった一人の愛しい人。殺したい程に…」 言い切り終わるとまたキスしてきた。 もう俺はアンジェラスに身体を預けていたので何されようがどうでもよかった。 そして明日から新しい生活が始まるのだ。 アンジェラスと俺だけの生活が…。 …。 ……。 ………。 「おい、ルーナ」 「あ、どうでしたダーリン?あたしの小説は??」 俺は神姫用のスケッチブックを机に置く。 そして一言。 「ボツ!」 「酷~~~~い!!!!」 俺の返事に困惑するルーナ。 どうやら期待していたみたいだ。 でも残念だったな。 結果はボツだぜ。 「ヤンデレなのはいいんだけど、なんで俺達がキャラなんだよ?」 「だって扱いやすいでしたんだもの」 「肖像権侵害で訴えてやろうか?」 「そんなぁ~…」 今度は泣きそうな顔をしながら俺に迫ってくる。 その時だ、ルーナの巨乳がブルンと動いたのは。 もう溜まりません。 性欲を持て余す。 「特盛り!」 「はい?」 「あぁーいや、何でもないよ!気にすんな!!」 「変なダーリン?じゃあ今度はオリジナルキャラクターで書けば大丈夫ですね」 「ん~まぁ、多少良くなるんじゃないのか」 「ではすぐに書きます!楽しみに待っていてくださいね、ダーリン♪」 「…おう」 できれば、書いて欲しくないがそんな事は…言えないよなぁ。 ルーナの心底悲しむ顔なんか見たくないしな。 でもなんでいきなり小説なんか書こうとしんたんだろう? 動機がさっぱり解からん。 まぁいいや。 俺はパソコンに向かいヤンデレが出てくるエロゲーを起動する。 えぇーと、確か三日前のセーブデータは…あれ? なんか知らないセーブデータがあるぞ。 試しにそのセーブデータをロードしてやってみた。 するとゲームはすぐに終わって画面はスタッフエンドロールになってしまった。 ちょっ!? もう終わっちまったぞ! 俺はここまでゲームを進めた覚えはないし…。 ん~! ちょっとまて、パソコン、ヤンデレ系のヒロインが出てくるエロゲー、そしてルーナが書くヤンデレ系の小説…。 あぁ~そいう事か。 ようやく解かったよ。 「ル~ナ~」 「な、なにダーリン?変な呼び方なんかしちゃって」 「五月蝿い!テメェ、また俺のエロゲーをやったろ!」 「ゲッ!?バレてしまいましたわ」 「『ゲッ』じゃねぇー!つーかぁ、毎回毎回俺のアカウントによく入れるよな。一周間ごとにパスワードを変えているんだぞ」 「ダーリンのパスワードなんてお茶の子さいさいですわ!」 「威張るな!今日という今日は許さん!!擽りの刑に処す!!!」 「キャハハハハーーーー!!!!ゆるじでーーーー!!!!」 俺の部屋でルーナの叫び声が響く。 その叫び声を聞きやって来たアンジェラス達。 そして俺とルーナが戯れている姿を見てクスクスと笑われたのは言うまでもない。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1188.html
「トリッキーな攻撃で相手を翻弄させるルーナで」 「あら、アタシを選んでくれるのね。嬉しいかぎりだわ」 右肩で、しなやか身体を動かしながら喜ぶルーナ。 まぁ喜んでくれるのは嬉しい。 だけど他の三人は少し残念そうな感じだ。 『後で他の奴等と戦うから、その時にな』と言うとパア~と明る表情になる神姫達。 さて、そろそろ対戦するか。 装備…よし! 指示…よし! ステータス…よし! ルーナを筐体の中に入れ、残りの神姫達は俺の両肩で座ってルーナの観戦をする。 「ルーナ、頑張れよ!」 「勝ったらご褒美くださいね、ダーリン!」 「油断しないでしっかりね。頑張るのよ、ルーナ!」 「負けるじゃないよ!一番最初の闘いなんだからな!!」 「ルーナさんー!頑張ってください!!」 「まかせなさい」 ルーナは少し淫靡な笑顔を俺に見せ筐体の中へと入って行く。 気がつくと俺は両手で握り拳をつくっていた。 いつになく俺の心は興奮していたのだ。 何故だろう? 多分、誰かを応援している事によって熱くなっているのかもしれない。 それとルーナに勝ってほしい、という気持ちがある…かもなぁ。 俺は筐体の方に目を移すと中には空中を飛んでいる二人の武装神姫達が居た。 READY? 女性の電気信号がの声が鳴り響き、一気に筐体内の中に緊張が走る。 勿論、外に居る俺達もだ。 FIGHT! 闘いの幕があがった。 お互いの距離150メートルからスタートして、敵のストラーフが接近しルーナは…あれ、ニコニコと笑いながら戦闘態勢にもはいっていないでその場で静止し続けている。 おいおい、これじゃあどう見たってルーナの方が不利だ。 出遅れもして更に武器すら構えていない。 いったいどうゆう事だ? 何か秘策でもあるのだというのか? 「はああああぁぁぁぁーーーー!!!!」 敵のストラーフがDTリアユニットplusGA4アームに付いてるチーグルで攻撃しようとした。 そこでルーナがクスッと笑い、背中に隠していたクライモアを取り出した。 ガギン! チーグルとクライモアがぶつかって鈍い音が聞こえる。 ルーナの奴、何時の間にあんな武器を隠し持っていたんだ? まぁ確かに装備させておいたけど…。 「残念でしたね~。そんな安直な攻撃では、あたしに届きませんよ」 ニッコリ笑うルーナ。 余裕綽々みたいだ。 あの自信はいったい何処から湧き出てくるんだろう。 「チッ!」 一度、ルーナから離れる敵のストラーフ。 ルーナの奴はクスクスと笑いながら追撃しない。 何故なんだろう、絶好の攻撃のチャンスだったのに。 「次はちゃんと攻撃してくださいね」 「クッ!バカにしてー!!このーーーー!!!!」 シュラム・RvGNDランチャーを準備しルーナに狙いを定める。 その間のルーナは…。 「あら、物騒な武器ですわね」 笑みを浮べながらビルの背にして移動する。 ちょっと、オカシイだろ! 普通、回避行動をしたり接近したりビルの背後に隠れたりするだろうー! なのに何故逃げづらい場所に行くのかな~。 訳解らん。 「クラエー!」 「当たればの話ですけど」 ドンー! シュラム・RvGNDランチャーから発射された弾がルーナを襲う。 でもルーナは避けようとする素振すらしない。 このままじゃヤバイ! 「避けろー!」 ドカーン! 俺が叫んだ直後、ルーナの背後にあったビルが爆発する。 煙がモクモクと噴出しルーナが何処にいるか解らない。 もしかしてシュラム・RvGNDランチャーの弾に命中し吹き飛び、ビルに当たったんじゃ…。 「あらあら。駄目でしたね~」 「えっ!?」 突如ルーナの声が聞こえた。 でも姿が見えない。 煙の中にいるのか? あっ! ルーナの奴、いつの間にか敵のストラーフの背後に居て右腕を回し、短剣のグリーフエングレイバーをストラーフの首に突きつけている! 何時の間にあんな所に居たんだ? まるで忍者みたいだ。 敵のストラーフは急所を突きつけられているので身動きが取れない。 寧ろ動いたらルーナに攻撃されると思っているのかもしれない。 「もう一度チャンスをあげます。次の攻撃で、あたしに命中しなかったら…貴女は負けます。いいですか?」 そう言ってルーナはストラーフから離れる。 また絶好のチャンスだったのに攻撃もせずに…だ。 完璧に相手の事をおちょくっているな、あれは。 お~お~ぉ、敵のストラーフは顔を真っ赤にして怒っているよ。 こえ~コエ~。 にしてもルーナの奴はなんであんなにも闘い慣れているんだ? 今日が初めてのバトルだというのに…。 「さぁ…遠慮なく攻撃してくださいね♪」 ニッコリと笑い、どっから見ても無防備に見えるポーズをする。 敵に対して火に油を注ぐような行為だ。 挑発、と言えば簡単だろう。 「このー!」 敵のストラーフはカンカンに怒りながらモデルPHCハンドガン・ヴズルイフを乱射した。 『フゥ…』と溜息をつき、顔を左右に動かすルーナ。 呆れてるようにも見える…だがすぐに真面目な顔つきになり。 「…!」 ん!? 消えた!? ルーナが敵のストラーフに向かって突っ込もうとする動作が視認出来たがその瞬間、オバケのように消えてしまった。 勿論、乱射されたモデルPHCハンドガン・ヴズルイフの弾はルーナに当たっていない。 そりゃそうだ。 なんたって標的がいないのだから。 「どこ!?どこに言ったの!」 「…ここよ」 声がした方に顔を向けるストラーフ。 向いた方向…ストラーフの真上だった! しかも空中で逆立ちしていた、逆立ちというよりもただ単に上下逆に飛んでるようなものだ。 「残念でした♪機会があったらまた会いましょう」 ルーナが言い終わると何故か敵のストラーフは地上に転落していき、ゲーム終了した。 筺体に付いてるコンソールを見るとストラーフのLPは無くなっていた。 ルーナが右手に持っている武器を見ると短剣のグリーフエングレイバーを持っていた、逆手持ちで。 目には見えない早業でストラーフをグリーフエングレイバーで切り刻んだのか? まさかな…いや、やっぱりそのまさかもしれない。 後で少し探ってみるか。 俺の方の筐体に付いてるスピーカーから『WIN』と女性の電気信号の声が鳴り響く。 多分、相手の方では『LOSE』と言われてるだろう。 そりゃそうだ。 勝ちがあれば負けもある。 二つに一つ。 「ダーリン、勝ちましたよ。ご褒美くださいね♪」 筐体の中で俺の事を見ながら喜ぶルーナ。 俺も自分の神姫が勝った事が嬉しくて微笑む。 両肩にいるアンジェラス達も喜びはしゃいでいる。 そうか…。 これが武装神姫の楽しみ方か。 確かにこれは楽しい。 おっと、ルーナを筐体から出さないといけないなぁ。 俺は筐体の神姫の出入り口の中に手を突っ込みルーナを待つ。 数秒後、ルーナは優雅な足取りで俺の右手の手の平に乗った。 そのまま俺は右手を自分の目線と同じぐらい高さまで持っていきルーナを見る。 「お前…何であんなに余裕で勝てたんだ?今日が初めてのバトルだろ?」 「そうですよ」 屈託のない笑顔で答えるルーナ。 最初は何か隠してるようにも思えたが…気のせいかぁ。 「それより早く~。ご褒美頂戴♪」 「あ、そうだったな。っと言ってもなー。ルーナはどんなご褒美がいいんだ?」 「そうですね~…あたしのオデコにキスしてください」 「ナッ!?キスだと!?!?」 「駄目ですか~?」 どうしよー。 キスかぁー…。 う~ん、ここでもしルーナにキスしなかったら…。 ☆ 「オデコにキスはちょっと…」 「そうですか。じゃあ、あたしからしますねー。濃厚なキスを…ね♪」 「や、やめろ!こんな人が沢山いるところで!!」 「もう遅いです~!ブチュー~」 「ギャーーーー!!!!」 ★ …ここはキスすべきだろう。 嫌な予感しすぎて背筋がゾッとするからなぁ。 「解ったよ。キ、キスしてやるから目を閉じろ」 「わーい。さぁっ!目を閉じましたから早く!!」 あぁ~、本当にキスをするハメになっちまったぜ。 ここは我慢だ、俺。 羞恥心を無くせ! ルーナをオデコに俺の唇を近づけさせる。 神姫だからオデコの広さ凄く狭い。 下唇が触れるぐらいが丁度いいかもしれない。 …チュッ 「…ンァ」 よし! 狙い通りに下唇をルーナのオデコにキスした。 キスした瞬間を見た他の神姫達が。 「いいなぁ…。ご主人様、ご主人様、次の試合は私を指名してください。絶対勝ちますから!」 「あー!いいなぁ~ルーナの奴~。よし!!次の試合はボクが出る!!!」 「あの…私のバトルは最後でもいいので…もし勝ったら、お兄ちゃんのご褒美くれますか?」 両肩で何やらルーナに嫉妬しているように見える三人の神姫達。 そんなにご褒美が欲しいのか? まぁ今日はトーブン、ここにいるから一応全員バトルさせてやるか。 すぐさま唇を離すとルーナが不満そうな顔しながら。 「あれで終わりですか?キスした瞬間、舌で舐め回してもよかったですのに」 「俺はそんな事しね~よ。つか、舐め回してって…」 「ダーリンの意気地なし。でも一応、キスしてくれたから許してあげます。気持ちよかったですし」 「許すもなにもないだろ。だぁー疲れた」 本当に疲れた。 体力が、というよりも精神的に…。 まぁいいか…、ルーナが気持ち良くなるのなら俺はなにも文句は言わん それにキスした時のルーナは可愛いかったし。 またキスしたくなるような表情だった。 ここでまた再びルーナのオデコにキスをすると乗っている三人に何されるか解らないのでキスはお預け。 ルーナを両手から右肩に移動させ、俺は次の筐体に向かった。 闘いはまだ始まったばかりだ。 「さぁ行くぞ!俺達のバトルロンドの幕開けだー!!」 こうして俺達のバトルロンドがスタートした。 そしてこの日からルーナの二つ名が出来た。 名は『刹那を操る者』…。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/190.html
前へ 先頭ページ 次へ 第三話 エイダ クエンティンは混乱していた。 まばゆい光に包まれたと思ったら、ボディが今までのとぜんぜん違うものにすげ変わっていたのだから混乱しないはずがない。いや、すげ変わっていたのではなく、これは本来のボディそのものが変化したのだ。見たこともないエネルギーラインが体を取り囲み、見たこともない装甲が全身に取り付けられている。というよりは装甲そのものも体の一部のようだった。 あまつさえ当たり前のように空中に浮遊している。アーンヴァルのような推進器の類はなく、背中に生えた小さな羽根からしゃわしゃわと出ているエメラルド色の粒子だけで、轟音も地面に吹き付ける風圧も無く、ただ浮いているのだ。 こんなことになった原因はすぐに分かった。あの銀髪の変な神姫だ。あの変な神姫が自分の頬を触ったと思ったら、消えて、なぜかその神姫の声が今は自分の中から聞こえてくる。 ということはその神姫は自分の中にいるという解釈がごくごく自然に成り立つが、ちょっと待った、とクエンティンは類推を引き止めた。 ありえない。そもそも自分の中にいるというその事実こそがありえない。純然たる世界の物理法則からして、二つのものが一つになるなんて絶対に起こらない。いや、一つになって質量が単純に二倍になるならいい。それは合体であり、物理法則になんら抵触していない。 一つになったのに質量が二倍に達していないのが問題なのである。たとえあの神姫自体がこの珍妙なアーマーに変形したのだとしても、二倍には程遠い。せいぜい一.三、四倍くらいだ。残りの六、七割はどこへ行ったのか。消えるということは無い。なら、融合したとしか考えられないのだが……。 『そのとおりです』 あの声がまた中から聞こえた。頭ではなく、胸の中、心臓の辺りから聴覚センサーを経由せず、陽電子頭脳の意識レベルに直接響いてくるらしかった。 「ちょ、ちょっと待ってってば、どーゆー原理でそうなってるわけ? そもそもアンタ誰?」 声に出して、クエンティンは訊いた。理音を含む周囲には独り言にしか聞こえないのではないかと彼女は思った。 『いま説明している時間はありません。ボギー、総数一二機。包囲されています。危険度レッド。脅威度イエロー。今すぐ戦闘行動を開始してください。ボギー1、8、来ます!』 「ええっ!?」 キルルルルッ 包囲している一つ目どものうち二体が、小さな羽根からオレンジの粒子を撒き散らして接近してくる。 クエンティンは慌てた。フロストゥ・クレインは足元はるか下に置き去りにされており、取りに行く暇は無い。 「ぶ、武器は!?」 『使用可能武装情報および取り扱いマニュアル、オープン』 声がそう言った途端、クエンティンはいくつかの武器がこの体にあることと、その使い方を思い出した。教えられたのだ、口頭ではなく情報として、やはり直接、陽電子頭脳へ。 右手を前方の一つ目、識別名ボギー1へかざす。 ツ、ツ、ツシュッ! 胸部の球体から右手へ伸びるエネルギーラインが点滅し、手のひら下のスリットから、全身を走ったり羽から出たりしているエネルギー粒子と同じ色をした粒子の塊が高速で三連射された。 三つのエネルギー塊は突進してくるボギー1にすべて命中し、足止めを果たす。 その流れで、手首にフォールドされているあの細長いブレードを展開、上体を右に回転させ、右後方へ切りつける。 シュパンッ! そこに丁度接近していたボギー8が、胴体から真っ二つに切り離された。 『ボギー8撃破』 そのままの流れで、もう眼前に肉薄していたボギー1へ、返す刀を真上から脳天へ振り下ろす。 シバッ! 刃を受けたボギー1は縦に半分にされて地面に落下、そのまま爆発した。 『ボギー1沈黙、8を除くボギー2から12、来ます』 残りの十体が一斉に突撃する。 衝突寸前、クエンティンは左手でボギー7をがっちりと引っつかむ。吸い付くような感触。グラブ機能だ。 そのまま最大出力で真下へ離脱する。小さな羽根からエメラルド色の粒子が大量に放出され、クエンティンは猛スピードで地面へ接近する。思わぬ加速に彼女は面食らった。 『衝突警告!』 「ぐうっ……!」 むりやり推進ベクトルを真横に切り替える。 バ、シャウッ! 地面すれすれで、たいしたGも無くすんなりと、クエンティンは真横に移動することができた。 そのまま真上を振り返り、敵集団へ左手のボギー7を力任せに投げつける。 目にも留まらぬ勢いでボギー7は敵集団へ衝突。それを含む三体のボギーはその衝撃で爆砕。 『ボギー2、7、12、撃破』 続いてクエンティンは背中に意識の一部を集中。 視界の生き残ったボギーにそれぞれロックオンシーカーが表示される。 ガシォーン! ロックオンレーザーである。直進しかしないはずのレーザーが、何十本、生き物のように曲がりくねって、数本ずつ一つ目どもに向かってゆく。 命中。 衝突でダメージを受けていた二体がそれで機能を失い落下した。 『ボギー4、5、撃破』 残り五体は距離をとって態勢を立て直す。 「何、この機動性……」 ここまでかかった時間は五秒にも満たない。性能を極限まで追及したアーンヴァルでさえ、こうはいかない。 「アンタ何者?」 クエンティンは声の主に訊ねる。 『独立型武装神姫総合戦闘支援システムプロトタイプ、エイダです』 エイダと名乗った声の主は、抑揚の少ない口調で答えた。 「ンなの聞いたこと無いわよ」 『公に対する情報開示はまったくなされていません』 「じゃあ聞くけど、アンタどこ製?」 『回答不能』 「同郷? BLADEダイナミクス? 少なくともカサハラインダストリアルじゃないわよね」 『回答不能』 「……もしかしてEDEN本社?」 『回答不能』 クエンティンは頭に来た。 「アタシのボディ間借りしといて回答不能は無いでしょ!?」 『申し訳ありません。情報プロテクトがされており、責任者の許可が無ければ開示できません』 そっけなく、エイダは答えた。 だったらなんで、独立型うんたらかんたらプロトタイプって自己紹介できたのよ。 クエンティンは憤りを禁じえなかった。 まったく、とんだ災難に巻き込まれちゃったわ。 「こんな道端のど真ん中で氷雪浴してた理由も回答不能?」 『申し訳ありません』 「もういいわよ」 はあ、とクエンティンはため息を吐く。本当に災難だ。 「そうだ、お姉さまは!?」 あたりを見回す。電柱の影で手を振っている理音の姿が見えた。 良かった、無事だわ。 キリキリキルッ それにつられたのか、残った五体の一つ目どもが理音のほうを向いた。 そのまま彼女へ近づいてゆく。 「なんで!?」 クエンティンは反射的に飛び出した。 明らかに一つ目どもはお姉さまを襲おうとしている! ロボット工学三原則、改名、人工知能基本三原則にばっちり抵触しちゃってるじゃない! なのになんで!? 簡単に一つ目どもを追い越し、クエンティンは立ちはだかった。 「アンタたち、人間を襲うの!?」 一つ目どもは答えない。発声器官が無いのだ。 突撃が答えだった。 「ちくしょー!」 クエンティンはブレードを展開、一番近いボギー10に急接近し袈裟懸けに切りつける。主エネルギーラインを断ち切られたボギー10は力を失って墜落。 切りつけた勢いを反転させ――やはり不思議なことに反動は無かった――正反対を飛んでいたボギー6の頭部を貫き、ブレードに挟ませたままその場で八の字にぶん回す。ボギー3,11がぶつかり、三体はまとめて爆発四散。 『ボギー10、6、3、11、撃破。敵、残り一体です』 「きゃああ!」 理音の悲鳴。 唯一残ったボギー9が、もう理音の目の前まで近づいていた。両手を真上に掲げている。 両手の先からオレンジ色のエネルギーカッターが伸びる。 「しまった!」 クエンティンは彼女の元へ飛ぶ。 だめだ、間に合わない! ボギー9が理音へカッターを振り下ろす。 パンッ、パンッ! まったく予想外の方向から甲高い破裂音が響き渡った。 ボギー9は何か強烈な勢いを持ったものに弾かれ、電柱に激突し破裂した。 理音とクエンティンは音のした方向を振り返る。 高級そうな白いスーツを着た、金髪オールバックの、眼鏡をかけた長身の青年が、煙を吐いている拳銃を持って立っていた。本物の拳銃である。 彼の後方には頑丈そうな真っ黒いサルーンが停まっている。 「こんなところで貴様に会うとはな」 「あなた……」 理音はその青年を知っていた。 以前とあるセンターの、リーグ無差別エキシビジョンマッチにおいて戦い、すんでのところでクエンティンが敗北した、「ルシフェル」という武装神姫のオーナー。 鶴畑コンツェルンの御曹子、長男、鶴畑興紀である。 「まさか拳銃で壊せないとは。たいした新型だ」 鶴畑興紀は地面に転がっている一つ目の残骸を見ながら、ひどく感心した様子で言った。 キルキルキルキルキルキル キリキリキリキリキリキリ さらに生糸を引っかくような音が何重にも聞こえた。 理音たちの後ろの道から、吐き気を催すような大量の一つ目 どもが現れ、近づいてきたのだ。 「こんなにいるなんて!?」 「チッ、乗れ!」 興紀は二人に手招きをし、サルーンへ乗り込んだ。 理音とクエンティンは一瞬迷ったが、選択の余地は無かった。このままこの場に居たのでは確実に嫌なことになる。 「何をしている!」 興紀は怒鳴った。 二人はバックを始めているサルーンへ飛び込んだ。 ドアが自動で閉まる。 「じい、出せ」 興紀は運転席の執事に命じた。 「かしこまりました。お二人とも、シートベルトをきちんとお締めになってくださいませ」 興紀も理音もベルトを締め、理音は懐へクエンティンを忍ばせた。 「行きますぞ!」 白髪の執事はシフトレバーを切り替え、アクセルを踏み込む。 狭い道路を、大型のサルーンがぶつかることなく颯爽と走り抜ける。 サルーンは逃走に成功した。 しばらくその場でうろうろしていたが、ややあって、一体残らずどこかへ飛んでいってしまった。 裏路地に静寂が戻った。 つづく 前へ 先頭ページ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2533.html
MMS戦記 外伝「敗北の代価」 「敗北の代価 10」 注意 ここから下は年齢制限のある話です。陵辱的な描写やダークな描写があります。 未成年の方は閲覧をご遠慮下さい。 熱弁を振るう春日に神代が冷ややかに答える。 神代「それで、このアヴァロンに来た目的はなんだ?」 春日「目的?決まってる私のリカルダで戦うことだ」 神代「・・・そういうことを私は聞いているんじゃない」 春日「ではでは、どういうことかな?」 神代「ふう・・・・」 神代は手元にあるワインを飲み干す。 神代「腹を割ってずばり話そうか・・・春日の狙いは6000万か?」 春日「NO!そんな端金には興味ない」 神代「ではなんだ」 春日「真相を知っているな?神代」 神代「ふ・・・あっははっははっはは!!」 神代は大声で笑う。 神代「もちろんだ。面白いから黙ってみている。どうしようかは悩んでいるがね」 春日「可哀想なのは騙されているあの2人だな」 神代「まったくだ、ひでいことをする」 春日「まあ、お金のためだ、仕方ない」 天使型のルカはなんのことか分からず首を傾げる。 ルカ「・・・一体何の話をしているのですか?」 神代「大人の話だ。それも金と女の絡んだ話だ」 ルカ「なんだか複雑で難しそうですね・・・」 春日「ノンノン」 春日が指をふる。 春日「これはとっても単純で分かりやすいことだよ」 神代「さて・・・それで春日はどうするつもりだ」 春日「決まっている、せっかくアヴァロンまでやってきたんだ。思いっきり暴れさせてもらう」 神代「あいつはどうするつもりだ?」 春日「・・・さあて、どうしようかな?」 春日はペロリと舌なめずりする。 春日「まるごと喰ってやるのも手だ」 神代「私は遠慮しとくよ」 春日「あっははっははは!!では、まずは挨拶代わりに派手にいこうか・・・」 春日の目が怪しく光る。 東條「レディース・アンド・ジェントルメンッ!!!武装紳士および淑女の皆様、大変長らくお待たせしました。今宵のメイン・イベント!!!スペシャルマッチを始めたいと思います」 観客たちが一斉にパチパチと拍手を行う。 台座の中央に、東條が毎度のことながら大げさなパフォーマンスで挨拶を行う。 □サンタ型MMS 「カミュ」 ?ランク オーナー名「東條 輝」♂ ?歳 職業 ??? 東條の肩からぴょんと青色のサンタ型神姫が飛び出す。 カミュ「ヨロシークー今日も元気ー」 観客席から声があがる。 観客1「カミュちゃん可愛いーー!!」 観客2「勝たせろ!!」 観客3「さっさとハジメロ!!」 東條はパンと手を叩く。 東條「さて、それでは今宵のメイン・イベント!!!スペシャルマッチを紹介しましょう。まずは青コーナー、SSSランクの強ランカー「春日」氏の有する『リカルダ』!!」 春日にすっとスポットライトが当たる。 春日「やあやあ、皆さんこんばんは、今日はじめてアヴァロンに乗船したが、なかなかいい船だね・・・気に入ったよ、派手に暴れさせてもらうつもりだ。だから諸君らも派手に遊びたまえ、今日は燃える戦いになるように・・・ささやかなお楽しみを持ってきた」 そういうと春日は指先にピラピラと小切手をはためかせる。 東條「ルールを説明しましょう。春日さまのリカルダに勝利すれば賞金1億円が支払れます」 会場がざわざわとざわめく。 観客4「い、一億ゥ?」 観客5「おおおおおお!!一億キター!」 観客6「なんだなんだあの女!海原よりも気前がいいぞ!!」 観客7「おいおいまじかよ!!!」 観客8「億来るか」 観客9「すっげえーーー!!!」 観客10「さすがアヴァロンだぜ・・・そこら辺の非公式バトルロンドとは桁違うわ」 観客11「ホンモノ」 観客12「くそう、俺も参加すりゃよかった」 ざわめく観客たちを尻目に春日は涼しい顔をしている。 東條「今宵は1対100の変則バトルロンドとなります。対戦相手は現在このアヴァロンに乗船しているオーナー様たちです。このバトルロンドに参加するに当たって一人当たり5万円の参加費で参加できます。現在、このバトルに参加している方々は以下の通りです」 ずらっと並ぶオーナーたちの名前と参加する神姫たち。 春日がちらっと一瞥する。 春日「ふっ・・・」 鼻で笑う春日。 東條「では、今回の戦っていただくステージはこちら砂漠ステージです。ご覧ください。」 小学校の標準的なプールサイズ、幅12m×長さ25mほどのステージには荒涼とした砂漠が再現されていた。 東條「このステージで今回は戦っていただきます」 カミュが捕捉説明をする。 カミュ「砂漠での戦闘になりまーす。砂丘や岩なんかの障害物をうまく利用して戦ってね」 東條「ルールを説明しましょう。1対100のデスマッチ、相手がサレンダーもしくは機能停止すれば試合終了です。武装・戦術はなんでもなり、バトルはこのステージ内のみ、ステージにはみ出た場合は失格となります。制限時間は無し、双方の対戦相手を全滅させたほうが勝ちです。なお春日さまの『リカルダ』にとどめを刺したものが1億の総取りとなります」 カミュ「シンプルシンプルー」 東條「相応以上のルールでよろしいですね」 対戦相手の神姫やオーナーたちはニヤニヤと笑う。 オーナーA「いくらなんでもバカすぎるだろあのアマ」 オーナーB「舐めすぎだろ、SSSクラスだからって調子乗りすぎだな オーナーC「クソッタレ、やってやる!」 オーナーD「ぽんと一億か!!舐めやがって」 オーナーE「キチ○イめ」 東條「ちなみにこのバトルロンドは、ネットの裏サイトでも生中継で公開されます。お互い、素晴らしいバトルを望みます」 カミュ「ネットのみんながどっちが勝つかお金を賭けてね!」 春日がアルミ製のケースの金具をパチンパチンとはずす。 春日「さて・・・始めようか、リカルダ」 アルミ製のケースの中で、白と紺のツートンカラーの重武装の神姫がゆっくりと目を開ける。 キラリと紅の瞳が光る。 リカルダ「戦闘システム起動・・・」 神代が2階の観客席でルカと共に観戦する。 神代「ルカ、よく見とけよ・・・あれが春日の誇る最新鋭の武装で身を固めた武装神姫・・・リカルダだ」 □ 重邀撃戦闘機型MMS「リカルダ」 SSSランク 二つ名「ミョルニル」 オーナー名「春日 凪」♀ 20歳 職業 神姫マスター 対峙する赤コーナーの対戦相手の神姫たちは多種多様な神姫で構成されていた。 大型の戦艦型神姫や軽量の忍者型、大剣を握り締める騎士型、機関銃に弾を込める戦闘機型などなど・・・ 東條「では、皆さん準備はよろしいですね・・・ではバトルロンド・・・・レディーーーーーーーーーーー」 ヒュイイイイイイン・・・・ リカルダのエンジンが風を切り唸り声を上げる、キラキラと緑色の粒子が舞う。 東條「Go!!」 砂漠ステージの中央に、何隻かの戦艦型神姫がバトル開始と共に強烈な艦砲射撃を加える。 重装甲戦艦型神姫A「全艦砲撃開始ッ!!!我に続け!!」 大型の重装甲の戦艦型神姫が艦橋から発光信号をチカチカと光らせ周りの戦艦型や戦車型神姫、砲台型神姫に合図を送る。 巡洋戦艦型A「100対1なら負けはせん!」 装甲戦艦型A「主導権はこちらにある、速攻で決めるぜェ」 装甲戦艦型B「ひゃっはああーーー!!!一億円は俺のものだァ!!」 巡洋戦艦型B「ファイヤ!!」 戦車型A「鈍亀の戦艦型に負けるな!全車両一斉砲撃!!」 戦車型B「パンツァー2了解」 戦車型C「パンツァー3了解」 戦車型D「撃て撃ちまくれ!!」 砲台型A「くそう!!砲台型を舐めるな!」 砲台型B「畜生!戦艦型に戦車型の連中、調子に乗りやがって!」 砲台型C「撃って撃って撃ちまくる!!一度やってみたかったんですよね!!」 総勢30機あまりの大砲を主兵装備とする砲撃タイプの武装神姫が一斉にリカルダのいる地点に猛砲撃を仕掛ける。 リカルダのいる場所は着弾によるすさまじい猛砲撃で地面が抉り飛ばされ、土煙と土砂と黒煙でまったく見えない。 騎士型「大砲屋の連中、めちゃくちゃしやがる」 忍者型「うううー私らの出番ってあるのかな?」 悪魔型「私もハンマーじゃなくて大砲もってくりゃよかった」 サソリ型「砲撃が怖すぎて近づけない」 侍型「開幕砲撃止めて」 しょぱなからの猛烈な砲撃にたじろぐ他の神姫たち。 ズンズズズウン・・・ 砲弾が着弾するたびにステージがグラグラとゆれる。ステージ全体には硝煙と爆風で煙が充満し、視界が恐ろしく悪い。 戦闘機型「何も見えない」 天使型「センサーが砲撃のショックでパニック起こしてパア」 セイレーン型「あのアホ共!!!私たちのことも考えないよ!」 コウモリ型「まったくだ!」 上空で砲撃が止むまで待機している航空神姫たちがぼやく。 激しい砲撃が間断なく続く。 戦艦型のオーナーたちはもう勝った気で分け前の相談までし始める。 オーナー1「ははっは!!ちょろいものだな!」 オーナー2「所詮は我が戦艦型神姫の敵ではないな」 オーナー3「一億円は私の神姫のものだ」 オーナー4「待て待て、お前らが倒したとは限らんだろ」 オーナー5「私の砲台型の弾が当たったかも知れない」 オーナー6「あんなへっぴり腰で撃った弾が当たるものかよ」 オーナー7「戦果を確認だ!!砲撃止め!!」 ズンズンズウズン・・・・ 戦艦型、戦車型、砲台型神姫の砲撃が止む。 春日は砲撃が収まったのを見て、指示を下す。 春日「リカルダ、敵MMS集団を撃滅しろ」 リカルダ「Sir,Yes sir MyMasterrrrrrrr」 何が起きているのが分からなかった。 パンッと空気が爆ぜる音がしたかと思うと、一瞬にして1ダースほどの前方に展開していた騎士型や戦乙女型の神姫が木の葉のようにバラバラになって砕け散った。 撃破のテロップが流れる。 □騎士型MMS 撃破 □戦乙女型MMS 撃破 □忍者型MMS 撃破 □フェレット型MMS 撃破 □犬型MMS 撃破 □虎型MMS 撃破 □天使コマンド型MMS 撃破 □リス型MMS 撃破 □ヤマネコ型MMS 撃破 □悪魔型MMS 撃破 □ウサギ型MMS 撃破 □ハイスピードトライク型 撃破 撃破された後に、物凄い斬撃音と爆発音が響き渡る。 リカルダの攻撃は音速を超え、後から攻撃した音が追いついてきた。 目を丸くする観客とオーナーたち。ぽかんとする神姫やオーナーたちを尻目にリカルダが真っ赤に燃え盛るナギナタを豪快に振り回し、戦国時代の武将のように名乗りを上げる。 リカルダ「やあやあ、遠からんものは音にもきけ、近からんものはよって目にもみよ。我こそは打ち砕く者、リカルダなりッ!!!!」 ダンッ!!!地面を力強く踏みしめ、リカルダがケダモノのように叫ぶ。 「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!大暴れしてやるぜェ!!!!!!!!死にたい奴はとっとと掛かって来いやァ!!!!!!!!ぶっ殺してやるッ!!!!!!ぎゃっはっははっはははッ!!!!」 To be continued・・・・・・・・ 次に進む>「敗北の代価 11」 前に戻る>「敗北の代価 9」 トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2653.html
「まだ終わりませんよ。姉さん!」 光の刃が生まれたぺネトレート・烈「ぺネトレートセイバー」を携え姉さんを見据える。 痛みなんか関係ない。全力をもって姉さんと戦う 姉さんは歩みを止め、こちらを感心そうに見る。 「……ほう。まだ立ち上がれるか。そしてそれはオリジナルとみえる。そんな武装を出したぐらいで勝てるのかな」 「やってみなくてはわかりません」 私はリアパーツ、バリスティックブレイズをパージする。 もうこれは使い物にならない。ここからは真っ向からのぶつかり合い。 姉さんも大剣を正眼に構えて、迎え撃つつもりだ。 「はぁっ!」 私は姉さんの元まで疾走し、ぺネトレートセイバーを構えて右横から薙ぐ。 それはもちろん大剣で防がれる。 そうなるのはわかってた。 姉さんは私が今度は右の剣で攻撃した後は左の剣で突きに来ると思ってる。 姉妹だからわかる。断言してもいい。 だけど、それは姉さんの驕り。そしてそれは私への油断。 「こんどはそちらが……甘いです!!」 右の剣が防がれ、捌かれた勢いのまま一歩踏み込む。私は上半身を捻り右足を軸にして、回転。 左足で後ろ回し蹴りを姉さんのわき腹に放つ。 姉さんは私の予想通りに大剣は突きを備えてて、腹部は隙だらけだった。 「……くぁ!?」 直撃を腹にもらい、おもわず苦痛の声を上げる姉さん。 それでもまだ終わらない。 わき腹に当てた足を下ろし、今度は本気で左手のぺネトレートセイバーでフェンシングのように刺しにいく。 もちろん衝撃を与えたその腹部にだ。 だが、それは姉さんの左腕で真横から強く払われた。 それによって肘から先の腕周りが半分切られ、左腕はもう使えなくなったかもしれない。 ぺネトレートセイバーの鋭い切れ味を無視した捨て身の捌き。 それでお互い、間合いを空ける。 私のダメージよりか少ないが、左腕を使えなくさせた。 これで姉さんにも深い傷を与えることができた。 「……つぅ……これほどの深手を負うのは久しぶりだ。……強くなったんだな」 「私は逃げた先で大切な人に出会いました。そのおかげで姉さんたちの前に舞い戻って来れた。これが私の……いえ、私たちの強さの源です」 「……そうか、当然だな。こちらはその大切な人にはなれなかったわけだから。……“シオン”」 「わ、私の名前を……」 初めて姉さんに名前を呼ばれた。 認めてもらえて、今は敵同士なのになぜか嬉しくなってしまった。 「……全力でいくぞ」 「はい。こちらもそのつもりです!」 私と姉さん、両者身構える。 こちらはナックルから進化した双剣を。あちらは片手に大剣を持って。 姉さんは片手でも大剣を軽々と扱えることができる。ここからも油断は一切できない。 好敵手と認めてもらった。これでもう姉さんも私への驕りはないだろう。 そして、どちらからともなくピクリと動き、駆け出す。 「はぁっ!」 「……つぁっ!」 姉さんは片手上段から振り下ろし。 私はぺネトレートセイバーを交差させて、それを防ぐ。 数分は致命傷にならないような傷が全身に負うほどの斬り合いが続く。 袈裟斬り、逆袈裟、振り下ろし、振り上げ、双剣での連続の斬撃。 数え切れないほどの何度目かの斬り合いでガンッと轟かせ、剣が交りあった箇所から火花が飛び散る。 「くぅっっ!」 「……ぐぅっっ!」 同じように声を出し、二人とも歯を食い縛らせている。 こちらは両手。姉さんは片手なのに鍔迫り合いが拮抗している。 どれだけ、姉さんは馬鹿力なのか。 場違いにも私は頭の中でほとほと呆れてくる。 そして、私たち姉妹はまた同時に、鍔迫り合い状態からどちらも剣を離した。 一旦離れ、姉さんは大剣を横に倒して、そこから踏み出し思いっきり薙いでくる。 私は迎え打つ為にぺネトレートセイバーを重ね合わせ、大剣自体を真っ二つにする気で、こちらも思いっきり叩き斬る態勢で。 「……これで、終われぇぇーー!!」 「根性ォ!!!!」 鋭い剣閃の音の後、重い打撃のような鈍い音に変わった。 そのまた数瞬後。 私たちのいる頭上でヒュンヒュンと壊れたプロペラのような音が続く。 「……相打ちか」 「そうですね」 二振りの剣と赤い大きな大剣が地面に刺さった。 ぺネトレートの光刃はふっと消えてナックルに戻って落ちた。 そして、私たちはどちらからともなく倒れる。 動かない。動けない。 姉さんも私も。 もう体が…………。 ―――― 「シオン! 起きろ。目を開けろ」 僕が命令も出せず茫然と見ていて、もう10分ぐらいは経ったか。 気付いたら二人は倒れていた。 シオンはあの危機的状況から、ぺネトレートクロー・烈の力を発現させて、イスカを追い込んだ。 でも、どちらも力を使い果たしたのか、ピクリとも動かない。 「立って! シオン!」 「イスカ、立てー!」 「シオン、負けるなー!」「どちらも起きてくれー!」 見渡せばいつの間にか、周りからは熱いバトルを魅せられて、ちらほらと観客から応援の声が交っていた。 ほら、こんなにもの人たちが声を出しているんだから、聞こえているなら立ってくれ。 ……シオン! 筐体の画面を見れば起きあがる神姫の姿が。 観客からは、オオォッ! と驚きの声が上がっている。 声から察するにどちらかが起き上がったみたいだ。 それはどっちだ。どっちなんだ。 目が涙で濡れていて前がよく見えない。 クソッ。 拭っても拭っても後から出てくる。 確認しなきゃいけないのに。 「はい、ハンカチ」 「あ、どうも」 と、横から優しく声をかけられて手にハンカチを持たせてくれた。 それで目元を拭う。 「すいません。お見苦しいところを……て……、あ」 ハンカチを貸してくれた優しい声の主は宮本さんだった。 僕は突然気恥しくなった。 ハンカチは洗ってから返そうと思い、宮本さんにそう伝えようとするが。 「いいわよ、それあげる。言い方がものすごく悪いけど残念賞ってところね……あれ」 「え」 宮本さんが促した目線の先。 見えるようになった僕が筐体画面を見つめれば道の真ん中には――肩で呼吸をしているイスカが立ちあがっていた。 そして傍らの倒れているシオンはモザイク状になって消えていった。 遅れて聞こえるジャッジの機械音声。 『WINNER イスカ』 ―――― 「すいません、螢斗さん。負けてしまいました。……あはは」 「シオン……」 シオンは笑いながらもそう言った。 でもそれは仮初めの笑顔。 僕にはそれがわかってる。 「よく頑張った。シオンは頑張ったんだから。無理はしないで。……こういう時はおもいっきり泣いた方がいいよ」 シオンの頭を撫でる。 次第にシオンは俯いてきて。 「……だって私は……螢斗さんの武装……神姫なんですから……負けたぐらいで泣くわけ…………ヒック……う……うああああーーーあーーーー」 「よしよし……」 泣きじゃくって大粒の涙を流し張り裂けそうなほどの声を上げるシオン。 僕はそれを、シオンを子どもをあやすように、背中に指を優しく当て続ける。 ついでに僕も涙を流しながら。 神姫の尋常じゃない程の泣き声しか聞こえなくなったゲームセンター。 周りにいた人たちもこの空気に騒ぐ気はなくなったのか、不気味なほどの静けさが店内を包み込んでいた。 宮本さんはこの空気の中を普通に歩きだし、自分のついていたブースのアクセスポッドから、イスカを連れ出して持ってきた。 「ほら、イスカ」 「…………」 宮本さんは涙をこぼしているシオンの前にイスカを置く。 バイザーを外した真っ赤な瞳をさらけ出したイスカだ。 それでも無表情のままのイスカ。 「シオン、こっちも」 「グス……はい……」 シオンはなんとか目から溢れ出る涙を留まらせ、手の甲ですべて拭ってから、イスカの前へ歩み出る。 そして見つめ合うシオンとイスカ。 「……ん」 突然、イスカはぶっきらぼうに音だけの声を出し右腕を動かした。 それは不器用そうに右手を軽く開きシオンに差し出している。 これは握手でいいんだよね? 僕はそう思った。しかし、それを見たシオンは。 「ウゥ……お姉ぇちゃ~~ん……うわぁああああああああ!」 「……おい、ちょっと!?」 感極まったシオンは引っ込ませた涙腺をまたもや崩壊させて、握手のポーズを無視し、イスカの胸に抱きつき号泣をする。 それで、イスカは無表情な顔を見たことも無いほど驚き戸惑った顔に変化させた。 抱きつかれ固まっていたイスカだが、やがてシオンの頭に手をやった。 「……ふ、まったく、泣き虫な妹め」 「ぁああああああああ……お姉ちゃん、お姉ちゃーん!」 毒づきながらも、シオンは姉らしい穏やかな笑みを浮かべて、シオンを抱きしめ返した。 両腕で優しく。 バトルは勝てはしなかったけど、イスカのあの笑顔を見てたら、姉妹でいがみ合う事はもうないなと僕は思えた。 こうして永遠とも思われた、戦えない、いや戦えなかった武装神姫シオンの。 家族の絆を取り戻す戦いは終わったんだ。 長かった全てが終わった。 前へ 最後へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/197.html
武装神姫…今現在爆発的なブームを誇り、その老若男女を問わない人気は旧世紀の ヒット商品、ポケモンや遊戯王カードもかくや。いや、それ以上であろう。 かく言うオレ──日暮 夏彦も、もはや社会現象とさえ言えるそのヒット商品の恩恵に 与ってる一人だ。 「おし、掃き掃除終了…っとぉ」 ゆっくりと伸びをして、目の前の看板を見上げる。 「ホビーショップ エルゴ」三年前に親父の模型屋を改装して始めたオレの城だ。 玩具オタが高じて工学部に通った身の上としては、そのスキルを存分に活用出来る天職。 特に神姫関係には力を入れてて、販売、登録、修理、カスタマイズやオリジナルパーツ の製作まで何でも御座れだ。 そんなに大きな設備じゃないがバトルサービス用の筐体も借金して導入済み、 公式ショップにも登録してある。 そんな努力の甲斐もあってか商売としてはそこそこ快調。 近所の神姫ユーザーには結構支持されてるし、健全経営とは言えないが俺一人 生きていくには問題ない収入がある。 それに…ウチには他の店には無いウリがもう一つあるのだ。 「みなさん、家に帰るまでが学校とはよく言った物。無事にお家に帰る事は当たり前に 見えて大切な事です」 「特に、小さなマスターを持つ神姫はまだまだ充分な注意力を持たないマスターに 代わり、その安全を守る事も大切なお仕事です」 「ですから、マスターと逸れない様にして、しっかりお家に帰りましょうね」 『はーい!うさ大明神様ー!!』 自動ドアを開けて店内に戻る俺の耳に、凛とした女性の声と大勢の少女の声が響いた。 そして、大小さまざまなご主人様に連れられて神姫達が帰っていく。 「毎度ありがとう御座いましたー!」 愛想よくすれ違いに店外へ出て行く客に声を掛け、店内へ戻る。 「よ、御疲れ。大明神様」 声を掛けるのは店内に設えた1/12の教室、その教壇に設えられたハコ馬にのる胸像へ 向けてだ。 「マスター…貴方までその名で呼ぶのは止めて下さい」 非難がましく返事を返すその胸像こそがオレの神姫ジェニー。 所謂ヴァッフェバニータイプってヤツだ。 元々強化パーツとして販売されたこのタイプには素体が付いていない。 その代わりにディスプレイ目的の胸像パーツが付いてたのだが、 ある理由から素体の都合がつかなかったオレが間に合わせにその胸像パーツを チョチョイと改造してボディ代わりに使ってるのがコイツってワケだ。 その姿は旧世紀のバラエティで定番だった銅像コントのあのお方の如し。 その威容をして生徒達からは「ウサ大明神様」の名で親しまれている。 いや、子供の発想力ってのは素晴らしい。ソレが人間でも神姫でも。 っと、説明が前後した。ウチの他に無いウリってのはつまり…この神姫の学校だ。 事の起こりはオレがまだ学生の頃、バイトで塾講師をしていた頃に遡る。 当時塾では生徒の神姫持ち込みを禁止してたのだが、子供がそんな事守るワケもなく それなりに問題になっていた。 で、何をトチ狂ったか塾の方針として勉強中は神姫を預かり、 神姫にも人間社会について勉強を教える。なんて事になってしまったのだ。 そんでもって、白羽の矢が立ったのが既に塾講師内にも玩具オタが知れ渡っていた俺。 …ヨド○シに開店ダッシュは未だに若気の至りだったと思う。 あれさえ目撃されなければ。 とりあえず俺を呼び出した時の塾長の台詞「どうせ持ってるんでしょ?神姫」はかなり トサカに来た事を覚えている。 しかも確かあの時、あの親父は半笑いだった。畜生。 って、それは置いといて。 結局、俺と俺の神姫…ヴァッフェバニーのジェニーは神姫担当教師としてバイトを 辞めるまでの間、しこたま働かされたワケだ。 店を継いだ頃、まだ客足の少ない店への呼び水としてジェニーがもう一度教室を やったらどうかと提案して来た時は少し渋ったが、やってみれば事のほか評判も良く、 実際ウチの店を知って貰ういい切っ掛けになった。 多分オレ一人ではこうはいかなかったろう。 いや、実際腕さえ良ければなんとかなると思ってた俺としては、ジェニーへの感謝は してもしきれない。 「なら、新しい素体買って下さいよ」 「いや、大明神様が居なくなったら純真な子供達の夢が壊れるだろ?」 心を読んだかのようなジェニーの呟きに、即座に返す。なんかブツブツ言ってるけど メンドいので脳内スルー。 「さ、仕事仕事ー」 今日中にカスタマイズせにゃならん神姫が3体。いつまでも遊んでは居られんワケで。 大人は大変なのよ。 「今日も一日、良く働いたねー」 大きく伸びをして時計を見れば時間は午後8:56分。そろそろ閉店時間だ。 そんな平穏を破り、ドタバタと足音を響かせて客が店に転がり込んで来た。 文字通り、転がるように慌てて。 「すいません、まだやってますかっ!?」 …うん、もうしばらくは閉められそうにねぇや。 やって来た客は高校生ぐらいか? 話を聞けば彼のストラーフ「コラン」があるバトルを境にまったく動かなく なったという。 どのショップ、果てはメーカーに問い合わせてもどこにもハードの故障は無く、 プログラムだけがごっそりと無くなっているのだそうだ。 故障として新しいプログラムのインストールを推奨されたが、それはもはや彼の神姫 とは別の物になるという事。 彼はなんとか自分の神姫を救うべく、藁にもすがる思いでウチの評判を頼みに 尋ねて来たのだそうだ。 「少年、キミが最後にやったバトルってのはどんなバトルだったんだ?多分、原因は ソレだぜ」 さっきから、何度もした問い掛けを繰り返す。 この話になると歯切れが悪くなるのは…何だかな、察しは着くが。 「別にオレはメーカーの人間でも警察でもない。例えば…キミが非合法のバトルを やっててもソレで修理を断ったりはしない」 カマを掛けてみる。見る見る青ざめていく少年の顔が、複雑に表情を変えた。 「…ごめんなさいっ!」 開口一番大声で謝り、俯く少年。その肩を叩いて宥める。 ま、バトル派の神姫ユーザーにゃ意外とあるケースだ。 「僕…結構リーグでいいとこまで行ってて…自分の実力を確かめたくて… アンダーグラウンドのバトルに参加したんです」 「…その、最近パーツとかの遣り繰りに困ってて、賞金が欲しかったていうのは あるんですけど…」 申し訳無さそうに少しづつ言葉を絞る少年。頷き、黙って話しを聞く。 「…でも、こんな事を望んでたワケじゃない…バトルは勝ちました、賞金も出ました。 でも、僕のストラーフ…コランが帰って来ない…それじゃ意味が無いんです! 彼女が居ないと…何で…どうしてこんな事に…」 少年の肩が小刻みに震えている。…経緯はどうあれ、自分の神姫の為に泣ける…か。 「少年、そのバトルの参加方法とか解るか?」 「ネットワークのバーチャルバトルです。不具合を調べる時に、関係有るかと思って ログはとってます…」 「でも、そのサイト何時の間にか消えてて…裏バトルだから当たり前なんですけど…」 ログがあるなら話は早い。 「…そのログ貸してくれ。オレが必ず君のストラーフ──コランを直してやるから」 少年が目を見開いてこちらを見る。慌てて鞄からメモリーカードを取り出し。 「このカードに入ってます。あの…お願いしますっ!」 土下座せんばかりの勢いで頭を下げる少年に頷き、もう遅いからという理由で 今日のところは帰した。さて… PCのモニター上をとんでもない速さで流れていく文字の羅列を見ながら、嘆息する。 オレもそこそこやれるつもりなんだが…やっぱコンピュータ自身にゃ勝てんな。 …オレはオレの仕事しよう。携帯電話を取り出し、コールする。 「はい。KMEE神姫バトルサービスサポートセンターで御座います」 受付嬢の柔らかくも清潔感溢れる声が電話の向こうから響く。 いや、何を緊張してるのかオレ。 「あ、私日暮と申しますが。今米主幹いらっしゃいますか?」 「今米で御座いますね?少々お待ち下さい」 おお、良かった。不審がられたらどうしようかと思ったよ。 「もしもし?今米だ。お前か日暮?」 受話器から聞こえるゴツくてかつ加齢臭溢れる声に現実の無常さを感じる。 「うす、今米さん。今なんかトラブってる?神姫強奪事件とか」 「神姫狩りの事か?そりゃ困ってるが…今に始まった事じゃないだろ。 こっち側が噛んでるケースもあるしなぁ」 「いやいや、そういう必要悪じゃなくて。もっとどうしようもねーの」 歯切れの悪い答えを返す今米さんにさらに突っ込む。本気だかはぐらかしてんのか 読みにくいんだよなぁ、この人。 「まぁ、神姫絡みの犯罪やトラブルってのは悲しいかな右肩上がりだからな。しぼれんよ」 「ええと、一見故障じゃないんだけどデータだけごっそり無くなるってヤツなんだけど?」 受話器の向こうからキーボードを叩く音がする。 調べ始めて十数秒ほどか、返事が返って来た。 「ちょっと待て…それならカスタマーやウチを含めて18件来てる。何か掴んだのか?」 お、ビンゴ。 「ああ。ウチの客が被害にあった。今夜辺りなんとかするつもり」 「そうかそうか。そりゃいい、宜しく」 「で、いくら出す?」 「おい待て!?どうせウチとは関係なくやるんだろ?何で身銭切らなきゃならんのだ」 ちぃ、やっぱそう来るか。進歩ねぇな、オレも今米さんも。 「データ、そっちでサルベージした事にしたら評判上がるんじゃねーの? 企業イメージって大事よ、このご時勢」 「む…そりゃそうだが…しかしなぁ」 「どうせこれからたっちゃんに頼むし。嫌なら別にいいけど」 たっちゃんてのは古馴染みの警部さんだ。神姫関連犯罪の担当で色々と世話したり されたりのまぁ、腐れ縁である。 「あー、わかったわかった!そのかわりデータは大丈夫だろうな?」 「任せとけよ。んじゃ、報酬ヨロ」 電話を切る。おっしゃ。これで年末商戦向けの仕入れ費用は何とかなりそうだ。 「ジェニー、どうだ?」 アクセスログから例の違法バトルのサーバを探しているジェニーに声を掛ける。 「見つけてます。ウラも取れそうですよ」 「さっすが。しかし、人の神姫…しかもパーツじゃなくてデータだけなんてな」 「強力なランカー神姫だけ狙うってんならともかく、ランダムだろ?どうすんだか」 溜息混じりにジェニーが答える。 「他人の持ち物を所有したいなんて有り触れた願望だと思いますよ? 肥大した支配欲…とでも言えば的確ですかね」 「そういう向きに高額で販売する…愛玩用のボディにでも入れて。そんなトコでしょう」 冷静に説明してみせるその姿は一見クールだが…解る。 怒ってる、怒ってるよジェニーさん。 「ヘドが出るな」 ま…気分悪いのはオレも同じなんだが。 「準備、出来ているならそろそろ行きませんか?」 「まー待て、連中の潜伏先をたっちゃんに流す」 「猶予は…今23時か。2時間でいいな?」 「充分です」 力強く頷くジェニーに頷き返し、準備を始める。さぁ、久しぶりの副業だ。 >頭部パーツを複合レーダーユニットに換装。マルチバイザー装着。 >コアユニットパージ。メインボディに接続... >ヴァッフェバニーtypeE.S 「Genesis」起動..._ モニターに映し出される文字が彼女の目覚めを告げる。 オレの武装神姫。 Encount Strikerの名を持つカスタムヴァッフェバニー、ジェネシスが。 E.S…遭遇戦域対応を目的とした銀の可変アーマー「シャドウムーン」と背中の複合兵装 「ブラックサン」大型装備は背部ブースターから伸びるフレキシブルアームで全て接続。 移動は全てフライトユニットで行い、状況によって装備位置の変更、可変によりあらゆる 戦況に対応する特別仕様機。 全身フルカスタマイズ、武装も全てオレが玩具コレクションから厳選して改造した ワンオフ品。 本来のレギュレーションを逸脱したその姿はもはや公式戦に参加する事も適わない、 戦う為の神姫。 だが、俺達には必要な力だ。 そうオレとコイツ…「正義の味方」には。 ジェネシスをPCと接続し、ネットワークにダイブ。彼女の眼を介して広がる電脳世界を 駆け抜けていく。 意識を集中し、一心不乱にキーボードを叩くこと数分。例のサーバーに到着した。 情報を偽装しセキュリティホールを開けて侵入を開始。違法バトルのシステムに侵入。 公開ユーザー名には「G」とだけ入れる。コイツがオレの通り名だ。 「ジェニー…いや、ジェネシス。もうすぐ入り口が開く。今回のミッションはサーバーに 侵入後、軟禁状態の神姫を解放。オレの開けたセキュリティホールを経由して転送される 彼女達の護衛だ。行けるな?」 「了解」 「よし。ミッションカウントスタート!状況開始だぜ、相棒」 電脳世界とはいえ…その住人から見れば、往往にして実体を備える世界を形成して 見える。 サーバー内に広がる風景は鬱蒼と茂る森と光を遮る曇天。そして、その中心に聳える 重苦しい、監獄の様な屋敷のみ。 「雰囲気出してんなぁー…」 感心半分呆れ半分、呟く俺。 「マスター、索敵範囲に神姫一体。斥候でしょうか?」 「ちっ…調べられるか?」 「向こうにも気付かれました。近い…マシーンズ反応有り。波形からマオチャオタイプと 推察します。迎撃許可を」 「許可。マシーンズ撃退後本体は捕縛だ」「了解」 ブラックサンに積んだストフリ流用のドラグーンシステムが分離し、マシーンズを正確に 捉える。 相手の反応はまだ無い。レーダー反応精度はこちらが上か。 一度きりの発射音の後、ばたばたと倒れて目を回す、ぷちマスィーンズ。 「にゃにゃっ!?」 茂みから聞こえるその声に、指示を出すより早くジェネシスが反応した。 「其処ですか!」 腕部に装備したアムドラネオダークさん流用のワイヤークローデバイスがマオチャオを 掴み上げ、天高く引き上げる。 おー…猫の一本釣り。 「ひぃやぁーっ!?た、助けて欲しいのにゃー!リィリィお家に帰りたいのにゃー!」 ん?コイツ攫われた神姫か? ワイヤーを巻き取ったジェネシスが衝撃で跳ね上がるマオチャオ…リィリィだっけか。 …を抱き止めた。 「大丈夫。恐くないから…良く頑張ったわね?」 一瞬で柔らかい雰囲気を作り、リィリィの頭を撫でて優しく接する。慣れてるな大明神。 「ふえ?おねーさん…ダレにゃ?」 きょとんとした顔のまま尋ねるリィリィに、オレとジェネシスはここぞとばかりに 不敵に答えた。 『正義の味方…って事で』 「では、あの屋敷に皆捕らわれて居るんですね?」 「そうにゃ、バトル終わったのにリィリィ達ばとるふぃーるどから出られないのにゃ。 そしたらカタクてゴツイのがいっぱい出てきてみんなを捕まえて連れてったにゃ」 リィリィが俺達を案内しながら経緯を説明する。思い出してしまったのか元気がなく、 その声も悲しげだ。 「大丈夫…絶対に助けます」 決意のこもったジェネシスの声。固いヤツだと普段は思うが、こういう実直さは 誇らしくもある。 「はいにゃ…」 嬉しそうに微笑むリィリィの声が、オレの決意も新たにする。 その時だった。前方の地面が唐突に盛り上がる。いや、捕縛者…そいつらが現れたのだ。 「で、出たにゃ!アイツらにゃ!」 慌てふためくリィリィ。とりあえす置いといてそのプログラムを解析する。 神姫と思しき特長は無い。 「捕縛プログラムだな…改造してあるみたいだが、ベースはブロックウェアだ。 多分、特徴も見た目通り」 「つまり…硬い代わりに動きは遅いと」 ブラックサンを前方に構え、トリガーロックを解放する。 前方が展開しメガキャノンモードへ。 「シュート!」 ジェネシスの掛け声と共に放たれたビームの一撃が、一挙に二体を薙ぎ払う。 しかし、安心した瞬間今度はサイドから捕縛者が現れた。 潜行して距離を詰めたか、近い。 「おねーさん、遠距離攻撃型にゃ!?早く逃げるにゃ!」 リィリィが逃げる隙を作ろうとその爪を構える。 「心配後無用」 手品師の様な口調で呟くと、ジェネシスがモードを切り替える。 ブラックサンのサイドのビーム発振機から伸びるビームが重なり、繋がり… 巨大なビーム刃を形成する。 機構はフルスクラッチだが原理はムラマサブラスターと同じだ。 読んでて良かった、クロボン。 体ごと振り回すその巨大な刃に切り裂かれ、さらに周囲を囲んだ4体が破壊される。 「す…すごいにゃぁ…」 リィリィも呆気に取られるばかりだ。いや、ムリもないけど。厨装備でゴメン。 その後も散発的に敵は現れたが、特に問題になる様な事も無く屋敷まであと一歩と いうところまで辿り着いた。 ふと、暫く黙り込んでいたリィリィが口を開く。 「おねーさんのその装備は、どこで買ったのにゃ?」 「いえ、これは全てマスターのお手製なんですよ」 一瞬きょとんとした表情を浮かべるも、微笑みながら答える。 「そうなのにゃ…残念にゃ。リィリィも強力な装備さえあれば皆を助けて… あんなヤツらに負けないにゃ…」 「あ、そうだ!マスターさん、リィリィにも装備を作って下さいにゃ! 装備があれば負けないのにゃ!」 一瞬しょんぼりしつつも、すぐに持ち直したリィリィがなんとこちらに話しを 振ってくる。 ううむ…なんと答えたモンか。 「リィリィさん…それは違います」 オレが悩んで居るうちに、ジェネシスが会話に割って入る。 「装備は、神姫を助けてくれます。でも、神姫を強くしてはくれません。決して」 「そんな事ないにゃ!強いパーツを持ってる神姫は強いにゃ!」 「おねーさんは強いパーツを持ってるから解らないんだにゃ!」 「リィリィさん…」 諭すようなジェネシスの言葉に強く反論するリィリィ。 ジェネシスは悲しそうな瞳でリィリィを見詰めるのみ。 …やれやれ。 「リィリィちゃん、例えばマシーンズが今の3倍の数使えるとしたらどうかな? それは強い?」 「3倍!?それはきっと強いにゃ!でもひぃ、ふぅ、みぃ、はにゃ…混乱するにゃ~」 マシーンズの様な、遠隔操作を要する自律兵器を統率する事は簡単そうに見えて 実は非常に複雑なのだ。 一説にはその制御にリソースを食われてマオチャオシリーズはAI的に幼いなんて説も… いや、それは置いといて。 「ジェネシスはドラグーン6基、クローデバイス2基、フレキシブルアームが5本… コレらすべてを常時コントロールしなきゃいけない。腕が15本あるようなモンかな」 「じっ…じゅうごほん~…こんがらがるにゃあ~」 目を回すリィリィに多少は場の空気が和んだのを感じ、続ける。 「ジェネシスだって最初からこの装備を扱えたワケじゃない」 「というか、この装備自体が改良に改良を重ねて作り上げていった物だから、その過程 で身につけていったって所かな」 一拍置いて言葉を続ける。 「いいかい、リィリィちゃん。強力な武器を持つ神姫が強いんじゃない。 武器を使いこなしその性能を引き出せる神姫が強いんだ」 「今までだって、そんな神姫をリィリィちゃんも見てきた筈だ」 しばらく考えたリィリィが、おずおずと口を開く。 「じゃあ…リィリィも強くなれるかにゃ?おねーさんみたいに…」 「なれるさ。先ずは、一つの武器を極める。誰にも負けないぞってぐらい、その武器の 使い方を身につけるんだ」 リィリィが頷くのをモニタ越しに確認して、続ける。 「そしたら、次はその武器を生かせるような他の武器を選ぶんだ。組み合わせは いっぱいある。そうやって、武器を、戦い方をどんどん身につければ、どんどん 出来る事が増えていく。昨日は出来なかった事が出来るようになる」 「昨日より今日より明日。装備なんか無くたって、そんなリィリィちゃんはずっと 強いんじゃないかな?」 「昨日より…強いアタシ…」 ぱぁ、とリィリィに明るい笑顔が広がる。 「頑張るのにゃ!リィリィ頑張るのにゃ!」 「強い武器がなくたってリィリィは強くなれるのにゃ、皆を守れるにゃー!」 元気に飛び跳ねるリィリィ。自分の可能性に気付いたその表情は明るい。やれやれ。 「マスター…良い話しますね、偶に」 黙って聞いていたジェネシスが、誇らしげに微笑んでいる。 うわ。またやっちまった。オレ、凄い恥ずかしい事言ったよな今? 「いや、アレだ!好きなヒーロー物の受け売りだよ!? ほらヒーロー物はやっぱ人生のバイブルだろ!?」 やけっぱちで弁解する。あー、すっげぇ恥ずかしくなってきた。 「はいはい…」 ジェネシスのこちらを見て笑うその瞳が優しい。やめろ、オレをそんな暖かい目で見るな。 誰かオレを埋めろ。 「では…明日へ希望を繋ぐ為に、行きましょう!」 ジェネシスの呼びかけに屋敷の方を見る。屋敷は既にその威容を目の前に現していた。 薄暗い雑居ビルの一室、サーバー一台とPCが三台並ぶだけの殺風景な室内。 PCにはそれぞれ男達が張り付いてなにやら作業を行なっている。 その表情を一言で言えば…焦燥感。 「どうだ、神姫共は全員捕まえたか?」 ドアを開け、やさぐれた風貌の男が入ってくる。作業していた一人が慌てて腰を上げ。 「ア、アニキッ!それどころじゃねぇんですよ。見覚えの無い神姫が何時の間にか居て、 捕縛プログラムをどんどんブッ壊してるんですよ!」 「ああ?そういうのは登録の時に入れない設定になってるって、ブローカーが言ってた だろうが!テメェ、掴まされやがったな!?」 「ひっ!?いや、そんな事ねぇですよ!コイツ、昨日はいませんでしたって!」 「外から入ったってのか!?アレか、ハッカーってヤツか?どんなヤロウだ」 画面内を駆け回るのは銀色の神姫。アニキと呼ばれる男はユーザー情報を閲覧する。 >Type:WAFFEBUNNY >Name:Genesis >User:G 「…Gだと!?こいつ…あのGか!?って事はコレがウワサのE.Sか!?畜生!!」 「アニキ、コイツ何なんです?」 モニターとアニキと呼ばれるおそらく主犯の男とを交互に見詰める男。 「神姫犯罪が流行りだした頃、どっからともかく現れた自警団気取りのイカレ野郎だよ。 ブローカーから聞いた事がある」 唸るように低く呟く男は、続ける。 「コイツに目をつけられたヤツは必ずヒドイ目に合ったそうだ。神姫にしても コンピュータにしても、とんでもねぇ腕をしてていくつもの連中が被害にあってるって 話でな。神姫犯罪を嗅ぎ付けちゃ、幽霊みたいに現れるって話だ」 男達が話している間にも、銀のヴァッフェバニーは次々とプログラムを破壊していく。 「場合によっちゃタイプ名の後にE.Sって名前がついててな。なんちゃらストライクだか そんな名前だとよ」 「どういう意味か聞いたらよ、その中国人ブローカー漢字で見敵必殺と書きやがった。 笑えねぇ」 舌打ちし、憎々しげにモニターを見詰めて叫ぶ。 「おい、サーバー操作してとっととコイツを弾き出せ!」 「それが、さっきからやってんですけどサーバーをコントロール出来ねぇんですよ!」 「ああっ、畜生!」 部下の男の悲鳴に近い報告を聞き、主犯の男は近くの椅子を力任せに蹴り飛ばす。 追い出せないなら…後は潰すしかない。このままじゃ折角の儲け話がパーだ。 「くそ、こうなったらオレがあのGをブッ殺してやらぁ!例の神姫、使えるな!?」 「あ、へい!言われたとおりにやっときました!」 「よっしゃ…裏稼業でも音に聞こえた神姫のデータだ。強い神姫に目が無い金持ち連中に なら100万…いや、1000万単位でも売れるかもしれねぇ」 男が思考を切り替える。そう、こいつはチャンスだ。こないだも鶴畑とかいう金持ちが 大金積んだとかを自慢してるヤロウを苦々しく見てたが、今度は俺の番ってワケだ。 大金に目を輝かせる男達は、反撃の準備を始める。 「さぁ、儲けさせてくれよ…見敵必殺の武装神姫さんよぉ…」 下卑た男の笑いが、埃っぽいワンルームに低く響いていた。 屋敷内に無数に仕込まれたファイヤーウォールを破壊しつつ、先を急ぐ。 「皆の気配を感じるにゃ!こっちにゃっ!」 興奮気味にしっぽを揺らしながら走り抜けるリィリィに誘導される形で、 ジェネシスが続く。 「ここにゃ!」 叫ぶリィリィが大きな扉を開け放つ。中には不安そうな顔の武装神姫… おいおい、30ぐらいいないかコレ。 「皆、助けに来たにゃ!早く逃げるにゃ!」 わっと歓声を上げる神姫達。リィリィに先導される様に駆け出して行くその殿を ジェネシスが務める。 「マスター…抵抗が少な過ぎませんか?敵方の神姫が一体も出てこないというのは このテの犯罪としてはどうも…」 周囲を警戒しつつ、不安を煽らないように小声で問うジェネシス。 確かに、色々嫌な予感はしていた。 予想は色々出来るが…出来れば外れて欲しい。杞憂であって欲しい。 そういうのに限って当たるんだが。 「リィリィの方を警戒だ。門を開けたら、なんて事にならないように」 「了解」 大きな正門はもうそこまでという所まで来ている。ジェネシスがトリガーロックを外し、 そちらを注視した。 こちらの不安を知ってか知らずか、大きな声でリィリィが叫ぶ。 「開けるにゃ!」 ゆっくりと音を立てて開くその扉の向こうには…曇天が広がるばかりだった。 取り越し苦労か?いや…突如始まる地鳴りが不安を肯定する。地を割って現れたのは 今までとは明らかに異質な敵…神姫だった。 ストラーフの腕を無数に繋げていったようなその姿は、龍のようでもあり、 百足の様でもある。尾部には巨大なブレード、頭部は…その巨大さから良く見えないが 大きな目と爬虫類のような顎から覗く牙が伺える。 「私がやります!リィリィさんは皆を守って!」 ジェネシスが前に出る。確かに、とても普通の武装神姫が戦える相手じゃない。 「解ったにゃ!」 ジェネシスと入れ違いに下がるリィリィが、神姫達とジェネシスの間に入り、 神姫達を守るように立つ。 どうにも嫌な予感がして一声掛けようとしたその時。一瞬、ジェネシスの視界から見た リィリィの背後の神姫達。 ─その表情が消えていた。 「リィリィ!危ない!」 反射的に叫ぶ。だが…オレの叫びと、リィリィが背後のハウリンタイプにその身体を 貫かれるのはほぼ同時だった。 「リィリィさん!」 ジェネシスがハウリンにぶちかましをかけ、リィリィを抱いて上昇する。 地上には操られた神姫達、そして空にはこちらを睨みつける巨大な異形の神姫の頭。 それらと距離を取り、リィリィを安全な場所へ降ろすべく飛ぶ。 「にゃ…どうしたにゃ…痛いにゃ…体が、動かない…にゃぁ…」 「喋らないで…!」 苦痛に歪むリィリィの声を、心配そうなジェネシスの声が遮る。 「みんなは…どうしたのにゃ…?」 「操られています…おそらくウイルスによって」 逃走中の様子に不自然な点は無かった… とすれば、任意で起動する洗脳プログラムだろう。 …その可能性は充分考えられたのだ、罠を感じた時から。 過去にそんな経験が無かったわけでもない。 だが、リィリィにそれを告げる事がどうしても出来ずに、頭のどこかで可能性を 否定していた。 彼女が必死に守る、そんな仲間に気をつけろとは言えなかった。 「すまん、リィリィちゃん…オレが気をつけていれば」 「マスターさんの…せいじゃないにゃ…」 リィリィの微笑みに首を振り、言葉を続ける。 「いや、こんな事もあるかもってさ…心のどこかじゃ考えてたんだ」 「…言えなかったけどな」 不甲斐なさを噛み締め、彼女に謝罪する。 「解ってるにゃ…リィリィが、悲しい思いをしないようにって…言えなかったにゃ…? ありがとにゃ。悪くなんて…無いにゃ…」 何もいえない…言葉に詰まるオレを、ジェネシスが叱責する。 「マスター、私達は何ですか?ここで折れてはならない、負けてはならない。 正義は勝たなければならない」 「勝利する者が正義じゃない。だが、正義を語る者に負けは許されない。 諦めないから、正義は死なない。でしょう?」 …ジェネシスの言葉が、胸の奥を燃やす。そうだ、オレは…やらなきゃならない。 凹むのは、店長稼業だけで充分だ。 「…助けるぞ、全員だ」 「勿論です」 「にゃ。ファイトにゃ…おねーさんはつっよいにゃ…信じてるのにゃあ…」 力なく微笑むリィリィに頷き返す。 「しばらく眠っていて。目覚めた時には貴女は…貴女のマスターのお家に帰ってる。 約束します」 「うん、楽しみ…にゃ」 データ破損状態のまま活動するのは危険な事だ。セーフティが働きスリープモードに 移行したリィリィを丘に降ろし、こちらへ迫る神姫達を見る。 「ここが正念場だな」「はい」 気合を入れたジェネシスが、曇天の空へ飛翔した。 NEXT メニューへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1595.html
姫の閉ざされし檻、呪われし高貴(その二) 第三節:賢者 半ば日が中天に差し掛かる頃、私達はアキバへと帰ってきた。昼食さえも 摂る時間を惜しみ、駅の売店で買った栄養補助食品とスポーツ飲料を皆で 分け合いながら、神姫センターへと赴く。連休も明けて暫く経った平日の センターは、多少賑わっていた物の……混雑という程の人は居なかった。 「ふぅむ……緊急充電用のレンタルクレイドルは、どれも正常だな……」 「ん~……電源ケーブルが何処かへ引っ張り出された跡も、ないですの」 「となると、ロキちゃんは一体何処で充電しているんでしょうね……?」 「……ひょっとして、充電が不要な位のジェネレータを積んでるのかな」 一緒になってクレイドル周辺をまさぐる梓から、そんな推論が飛び出す。 しかし、強ち的外れとも言えない事情がある。それは、彼女の躯に備わる “装備”だ。可変式の高速電磁浮遊ウィングに、プラズマで固めた武装。 いずれも、莫大な電力がなければ満足に運用出来ない筈なのだ……だが。 「ロキは、平然と動き回っていた。有り得ない話ではないかもしれんな」 「あ、あのー……お客さん?そんな所でしゃがんで、お探し物ですか?」 「……あ、うん。スペーサーを落としたんだよ。でも、見つかったもん」 「気を付けて下さいね?センターではそういうの、賠償できませんから」 流石に不審だったのか、店員が私達に声を掛けてくる。ここでこれ以上の 捜索は無理かもしれぬな……。しかし何らかの形で補給をせねば、いくら 優秀なジェネレータでも限界はある。何処かで、ロキは補給をしている。 それは間違いないのだが、此処に今居ないとなると……何処にいるのだ? 私と梓はベンチに腰掛け、深く溜息をつく。痕跡さえ、見つけられない。 「うぅむ、参ったな。ここで補給しているとばかり思ったのだが……」 「他のセンターで、補給しているかもしれないんだよ。行ってみる?」 「でも、雰囲気悪かったり入った事無いセンターは捜索出来ませんの」 「そう、ですよね。ここでさえ、全てを把握している訳じゃないです」 馴染みの深いこのセンターで何も見つけられない、となると。私の往く 活動範囲には、最早探索できる場所は殆ど無いとも言えるだろう……。 途方に暮れるとはこの事か……?皆で、溜息をついた。その時だった! 「心配はいらないよ、小さなレディ達……奴は確かに、ここで補給した」 「何ッ!?き、貴様は……前田、そして“アラクネー”ではないかッ!」 「こんにちは。まさか、こんな形で再会するとは思わなかったけどね?」 私の眼前に、一人の男と一人の神姫が現れたのだ。“自衛官の”前田と、 “女郎蜘蛛の”アラクネー。何故神姫バトルをしているのかさえ不明な、 謎の多い連中……そして、クララの初戦を務め彼女を導いた“賢者”だ。 知らず知らずにクララ……いや、梓の躯が緊張する。未だ、彼女にとって 尊敬するべき“師”なのかもしれん。だが、彼らの雰囲気は剣呑だった。 「前田さん、アラクネーさん……お姉ちゃん達から、噂は聞いてるよ」 「ふむ、某とクララの仲を知っているのか……ならば、問題はないな」 「そうみたいだね。で、何かお探しなのかな?小さなお嬢さん達……」 「……惚けるな前田よ。貴様は今、確かに言ったろう。“奴”とッ!」 私は、自然と前田を睨む。喰えない男だとは思っていたが、今こうして 微笑みながら向かいのベンチに座る奴を見ていると、尚更分からぬな。 自衛官という立場上、何か知ってるのかもしれんが……どういう事だ? 「ああ、そう言えばそんな事を言ったね。僕もうっかりしていたよ」 「どう考えても、私達の探している者を知っているという態度だな」 「はは……出来れば、違っててほしいんだけどね。で、何だろうね」 梓に視線を移す。鷹揚に笑いかけ、世間話を始めようかというこの男に、 全てを話していいものか。私だけの判断では、どうにも雲を掴む様でな? 尤もロキの手懸かりその物が、既に雲を掴む様な状況になりつつあるが。 しかし暫し迷い、梓は肯いた。“クララ”として、彼らを信頼したのだ。 アルマとロッテも、二人の胸元で肯く。となれば、黙っている事もない。 「……探しているのは神姫だ。否、厳密には神姫と呼べぬかもしれん」 「北欧からやってきた、哀しい定めを背負った一体のMMSですの……」 「ひょっとしたらまだ秋葉原にいるかも知れないって、思ったんだよ」 「だから、その。探してたんですけど……そういう貴方達は、何を?」 前田は深く溜息をついてから、アラクネーを促した。この世の終わりでも 来たかの様なオーバーアクションを確認し、小さな神姫が重い口を開く。 それは私達にとって……そして彼女らにとっても、望まざる展開だった。 「某らが追い求めるは、“ハザード・プリンセス”の零号機に他ならぬ」 「“戦略級殲滅型MMS”って分類の、中規模破壊を行うテロ用兵器かな」 「神姫の皮を被った怪物、それこそが……“国家の敵”たる人形なのだ」 ──────世界はやっぱり、残酷なんだよ。 第四節:信念 自衛官の前田と、彼の神姫たるアラクネーから出た言葉。それは正しく、 最悪の運命が間近に迫っている事を告げる、“賢者の忠告”に他ならぬ。 「テロ用の兵器、人形……だと?貴様、知っているのか……ロキを!」 「知っているよ。僕らの任務は、アレを追いつめ無力化する事だから」 「どうしてですか!あの娘は、マスター達の為にやっただけなのに!」 アルマが梓の胸から乗り出し、泣き叫ぶ。助けようと思った存在が、既に 国家という巨大な“モンスター”から目を付けられているという現実に! それは既に、ロキが『“世界の敵”として認識されている』事にもなる。 「存在自体が、極めて危険なのだ。国家という“大を救う”べき者には」 「彼女の存在その物が、罪でしかないんだよ。そこに在るだけで、拙い」 「故に何としても、彼女を無力化せねばならない。破壊してでもな……」 『存在その物が罪』。この世に産まれ出る者にとって、理不尽の極みとも 言える断定であった。それが器物であろうと……神姫であっても、そこに “心”がある以上、これを理不尽と言わずに何というのか。だが同時に、 国家を……民衆を護らねばならぬ者からすれば、ロキは正に害悪である。 「それが、日本って言う国の考え……でいいのかな?前田さん……?」 「構わないよ。ついでに、日本と繋がる主要な国家の考えでもあるね」 「……驚いた。既に世界規模で指名手配されているのか、ロキは……」 「当然であろう、マスター……晶殿。彼女は、“ラグナロク”の残党」 「僕らもつい先日、逮捕したエージェントの自白で知ったんだけどね」 「捕まったんですか、運び屋さん!?……まさか、彼女を棄てたから」 前田は軽く溜息をついてから、肯いた。あの爆破はやはり“事件”として 警察とは別の治安組織が追っていたのだ。ロキを追う過程で、彼女を運び 秋葉原で棄てていった運び屋の存在が、露呈したのだろう。些か現実味に 欠ける話ではあるが、それでも認識せねばならない……事の重大さをな。 「僕らには、上の命令に従ってロキを無力化するという責務があるんだ」 「その為に……無闇に関わろうとする部外者は少ない方が良い、となる」 「だったら、なんですの?わたし達を傷つけて、国の為に封じますの?」 だが、それよりも早く……身を弁えるという理性的な選択より早く、私の 胸元から“感情”に満ちた声が響く。それこそ、黙って前田達の言い分を 聞いていたロッテの声だった。それは、怒りと哀しみに満ちた音である。 「ロッテ君、だったかな。君達を捕まえたり、傷つけるつもりはないよ」 「ただ……そなたらの介入でロキを逃がす事になっては困る、とな……」 「だったら、わたし達が自己責任でロキちゃんを止めればいいですの!」 啖呵を切るロッテに、前田が目を見開く。この反応は、予想外らしいな。 それは、全てを敵に回してでも助けたいという“信念”故の叫びだった。 アラクネーが睨め付ける様に、アルマと梓……更に私を見据える。それは 幾多の死地を潜ってきた主に引けを取らぬ、一種独特の凛とした気配だ。 「万一そなたらや主に危険が及んでも、何の救済も受けられぬのだぞ?」 「……保険を申請しても、事実は隠蔽されるから保証されないんですね」 「そう言う事、だね。秘密裏に全てを終わらせたい。それが上の考えさ」 「話を聞いてて気になったけど、“破壊”は義務じゃないのかな……?」 「執るべき手段の一つであって、確定事項ではない。無力化こそが重要」 しかし己を譲らないロッテに気圧されたのか、アルマと梓も食い下がる。 ここで自分だけ荷を擲つ事は、“姉妹”として考えも及ばぬのだろうな。 二人の事実確認を受けて、ロッテは続けた。それは、私の考えでもある! 「なら……ロキちゃんが破壊を止めて普通の神姫になれば大丈夫ですの」 「普通の、神姫に?……確かに、神姫の因子を持つ相手だが……無謀だ」 「無茶でも無謀でも、そうなれば国家として敵視する道理はあるまい!」 「ま、そうだけどね。僕としても命令は果たせる。でも、いいんだね?」 それは国家の代行者として『失敗した時は私達を見捨てる』という言外の 意味を含んだ、最終確認だった。本当に、私達は後に退けぬ事へ関わって しまったのだ……しかし、それを悔いるのは全てが終わってからでいい! 「いいですの!わたしは……ロキちゃんを必ず救うと決めましたの!」 「はぁ……参ったね。ここで退いてくれた方が、堅実だったんだけど」 「主よ、最早言っても聞いてはくれますまい。やらせてみては如何か」 がっかりした、という様なアクションをしつつ前田は肯き、立ち上がる。 最早、大っぴらに助けを借りる事は出来ない。私達の力で、なんとしても ロキを“日常”へ引き戻してやらねばならぬ。僅かの失敗も、赦されん! 「小さなレディ達、出来れば……僕らに手間を掛けさせないでくれよ?」 「無論そうする。何処の所属かは聞かぬが、本拠で報せを待っていろ!」 「そなたらは不器用すぎる。だが、そういう生き方も嫌いではない……」 「……恐れ入るんだよ、アラクネーさん。でも、必ず成し遂げるからね」 「あたし達には、それしか出来ませんから……きっと、助けてみせます」 「“武装神姫”の意地にかけて、絶対にやってみせますの……絶対ッ!」 ──────想いの力は余りに強く、皆を震わせるんだよ。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1699.html
とある日の三河家 目を覚ますと何やら違和感が。はて、なんでしょうこれは?あ、お早う御座います。結です。 体機能に異常はありません。手足も問題なく動きます。 んー、でも何か違和感があるのです。 「・・・あっ」 手をグッパ、グッパとしていて気が付きました。本来犬型の手は黒いのに今動いている私の手は肌色です。昨日言われていた「考え」とはこの事だったんですか。何ともはや仕事が速いですね。 「ん?」 と言う事は・・ 「・・・・・・!!!」 自分の体を見下ろし数秒、狼狽します。クレイドルの上で全身肌色の私が寝転がっているんですから仕方ありません。寝る前に着ていた寝間は横に畳んでありそれを引っ掴んで即行で着ます。 あー、吃驚しました。 冷静さを取り戻すとクレイドルを文鎮代わりにしているメモを見付けます。 『昨日言っていた通り体の外装を交換した。一応以前の外装は保管していあるから問題があるようなら帰宅後言うように。後一応裸なんだし下着を用意しておく』 メモの横に包装されたままの神姫用下着が置かれていました。 「ありがとう御座います。ご主人」 メモに向かって一例を。でも出来れば寝ている時にタオル掛けておいて欲しかったかも・・・ いつもの巫女服に着替える前、下着を付けます。 が、袴なので下はいいとしても上は少々不釣合いのようです。薄布とはいえ白小袖では浮いてしまいます。ここは今まで通りサラシを巻いておきましょう。最後に白足袋を履いて時計を。 「えぇ!?」 時刻は午前10時、いつもの起床時間より4時間も遅いです!急いでお勤めをせねばなりません! 一路境内へと走ります。 「寝過ごしました!すいません!」 境内を掃除されていた奥さんに謝罪をして竹箒を手にします。 「お早う。話は聞いてるわよ、ゆっくりしてなさい」 「お早う結さん。今日は休む事がお勤めだ」 宮司さんも箒を手に拝殿前にいらっしゃりそのままご夫婦で掃き掃除を続けられます。 「ですが・・・」 「「ダメ♪」」 さて、何をしましょう。お勤めはお休みとなりましたし盆栽は今のところ手を加えられませんし。 「トレーニングしますかね」 体の確認も兼ねて軽めのものをこなすとしましょう。 仕込みを抜いて剣の型を始めます。 上段に構えてから唐竹、逆風、袈裟懸け、右切上、左薙ぎ、逆袈裟、左切上、右薙ぎ、最後に腕を引いて刺突へ。剣術に於ける最も基の型を続けます。 「ふむ」 どうやら間接や稼動部のメンテもして頂いたようです。手足は滑らかに、昨日までよりもより軽快な動きが出来ています。 調子に乗って逆手での連撃まで練習してしまいました。 お昼まで練習を続け一旦休憩をと公園へ向かいます。 「ふぅ」 ベンチに腰掛一服を。そういえばこう何も無くのんびりするのは久々な気がします。いつもならお勤めや盆栽の手入れなどしていますしね。 「にゃぁ」 「あっ、こんにちわ」 公園から来たのはご近所の猫サスケさんです。この方飼い猫なのに野良達を束ねているのですよ。しかもご老人方に人気なのです。日がな一日ここでのんびりしている姿が癒されるのですね。自分より大きなその体を撫でているだけでなんともゆったりできるので私もファンだったりします。 そんな彼をモフモフして過ごすのも良いものです。 昼過ぎ、ご主人が帰宅されました。 あれ?今日は平日なのにどうされたのでしょうか? 「今日はお早いですね」 「半休。それより体はどうだ?」 「問題なく。寧ろ調子が良いくらいです」 満足そうに頷かれ鞄から神姫センターの袋を出されます。 「それは?」 「今日は何日だ?」 えっ、確か三月の10日・・・・あっ! 「思い出しました」 「自分の誕生日くらい覚えておけ」 そうなのです。今日は私の誕生日でした。厳密にはこのお宅に来た日なのですけどね。宮司さんご夫婦がその日を誕生日とされたのです。 自分事とは言えそれを忘れていたとはお恥ずかしい限りで。 「周りの事には敏感なくせにな」 「面目ないです」 カラカラと笑うご主人と共に部屋に戻りました。 自室で例の袋を開けると出てきたのは一着の服でした。 「思えば巫女服以外着てない気がしたからな」 「とても嬉しいです!」 それを中から取り出します。そっと後ろを向くご主人、紳士ですね。 朱袴と白小袖を脱いで側に畳み新しい服を手にします。藤色の矢絣のお召しに海老茶色の袴と何ともハイカラな組み合わせ、私の好みを熟知されています。更にはいつもの足袋と黒塗りの駒下駄と皮のブーツの二種類を選べるのですよ。 「ご主人」 「ん、似合うぞ」 その一言に何とも言えない幸福を味わいます。「嗚呼、何と幸せな事か」とね。にやける自分が容易に想像できますが笑顔を止める事など無理なのです。新しい服というもの勿論ですけど何よりプレゼントされたという事が嬉しいのです。自身のオーナーからなのですから尚更なのですよ。 「ほれ、ニヤニヤしてないで出掛けるぞ」 「あ、はい。只今」 ご主人の肩の上にて景色を眺めつつ会話を楽しみます。 「ところでどこに行かれるのですか?」 「特に目的地はないな。散歩だよ」 「成る程。それもいいですね」 どこへともなくブラブラと、ゆったりとした時間は穏やかで何気ない会話も楽しくて。ただの散歩にもこんなに幸福はあるものなのですね。 「あれだな、お前がウチに来てからもう2年か」 「ですね。早いものです」 のんびりとご近所を散策しつつ会話は過去の日へと。 春先に私はここに来ました。 オーナー登録を済ませた私が見たのは暖かな陽日と穏やかな境内の風景でしたっけ。 「ここがご主人のお住まいなのですね」 「ん。後両親と近所の野良、お前もな」 宮司さんご夫婦との挨拶に始まり神社を案内して下さいました。そしてお昼、私にとって重要な事が起こります。 「こんにちわ」 「おー、早かったな」 大学をお休みした直子さんがいらっしゃいます。手にした大きなトートバックには何やら着替えらしきものが見えていました。 「取敢えず上がってくれ。もう少し辺りを回ってくるから」 「はい。そうそう、こっちの二人も起こしておきますね」 境内を出てご近所を散策します。「近所くらいは知っておけ」との事で。 少し歩けば秋葉原の電気街、反対側に向かえば住宅地、道を2、3本交えるだけで景色はガラッと変わるのでとても楽しかったものです。更に小さな商店街では私達同様に神姫を連れた方を沢山見かけました。皆楽しそうで印象的でしたよ。それに空気がなんだか暖かくて。 「大体こんなとこかな。把握できたか?」 「はい」 目覚めたばかりでまだまだ感情表現が薄く気の利いた応えが出来ませんでしたね。 一通りの散策を終え帰宅するとそこには直子さんが。 「只今戻りました」 「お帰りなさい」 ご主人の肩から見たその姿は境内の雰囲気と相まって落ち着けるものでした。来訪時の私服から着替えた直子さんは白の着物に朱色の袴、巫女の出立で淑やかでした。その姿に私は何かを感じます。 「あ、あの、そのお姿は?」 「うん?巫女よ。神社のお勤めをする女性の事ね」 ただ境内を掃除しているだけだった筈なのに私は深く感銘したのです。そして、 「ご主人、唐突ではありますがお願いが御座います!」 「ちゃんとしたのは後で造ってやるから暫くはそれで我慢してくれ」 「勿体無いお言葉です!ありがとう御座います!」 奥さんの趣味たる手芸の技術をもって私は巫女服に袖を通したのです。家事でお忙しいでしょうに快く誂えて下すッた奥さんと着替えた私を神前にて祈祷を捧げて下すッた宮司さんには心よりのお礼をしたのは言うまでもありません。勿論ご主人もですよ。 「それじゃ次は私の番ね」 「お願いします!」 ご主人の肩をお借りし直子さんのご指導を頂戴します。 効率の良い掃き掃除の仕方からお勤め全体の流れ、特に塵の積もり易い場所や社務所での手順に参拝の仕来り等々、細かなところまで丁寧にご教授頂いたのです。更には宮司さんから木々の手入れの仕方を、奥さんから家事全般の教えを。 「ウチにも巫女さんが居てくれると助かるわ」 「だな。バイトさんだけでは厳しい時もあるしな」 「精一杯励まさせて頂きます!」 深々と頭を下げ今後のお勤めの意気込みを示しましたよ。 「好きな事するのも肝心だ。でも偶には付き合えよ?」 苦笑のご主人を覚えています。 「勿論です。私は武装神姫でオーナーはご主人なんですから。本来のバトルも誠心誠意、粉骨砕身の決意です!」 「ああ。でもま、バトルも楽しみ優先で行こうな。「好きこそモノの」ってやつだ」 「はい!」 その後春音さん、綾季さんとのご対面をし夜には祝賀となったのでした。 「思えば中々に長い期間たったのですね。光陰矢の如しですね」 「だな。それから10日後だったな初陣は」 「はい。覚えていますよ」 私は少し苦笑します。 境内の掃除や手水舎の準備は最初は手間取ったものです。 そんな日常も少しずつ慣れ始めた頃、私は始めて神姫センターに赴いたのです。 日頃ご主人の帰宅後にトレーニングを積み重ねていた私は犬型の基本装備を何とか使える程度にはなっていたました。 「次の金曜日休みだから行ってみるか」 「はい」 その時はまだこの近辺のレベルも知らず初陣に心躍らせていましたっけ。 当日。 午前というのもあって比較的空いているいる時間帯にセンターを訪れていました。 「・・・スゴイですね」 「だなぁ」 バトルの様子を大きなスクリーンで見ていた私達はその迫力に圧倒されていました。思えばこの時点で気負っていたのかもしれません。踊っていた感情は形を潜め代わりに緊張が押し寄せてきていました。 「ま、初陣だし胸を借りるくらいで行けばいいさ」 「は、はい」 解そうとして下さるご主人の声は聞こえていても私の中は「勝たないと!」と思うばかりでした。 そして私は負けました。それはもう一方的な敗北、正に惨敗でしたよ・・・ 筺体を離れテーブルにて私は落ち込んでいました。 「気にし過ぎ。最初から巧くなんていかないものだ」 「ですが流石にアレでは・・・」 自身の情けなさに暗くなる一方でしたね。 その後も数回バトルをしましたが結果は明白、私は本当に「武装神姫」なのか?と思う程のものでしたよ。 翌日からはお勤めの合間を縫ってはトレーニングに励みました。 只々我武者羅に。でもそれは素人の考えでした。巫女とバトルの二束の草鞋な私は何度もバッテリー切れを起こしては皆さんにご迷惑をお掛けしました。その度に心配されていたにも拘らず無茶もしました。終いには折角頂いた巫女服を損傷するまでに至ります。 「・・・・申し訳ありません・・・」 「服はいいのよ。それよりもあまり無茶ばかりするもんじゃないわよ?」 「そうだぞ。一朝一夕で実力は高くなんてならんさ、少しずつでも続ける方が余程効率も良いし何より負担もすくない」 修繕して頂いた巫女服を着た私は益々落込んでいきました。どうしてこうなんだろう?なんて自分は不甲斐ないのだろう?と。 ある日有給休暇で家にいらっしゃったご主人に私はお願いしました。 「ダメだ」 「何故ですか!?」 「これ以上無理してみろ、それこそ壊れるぞ?」 「ですが・・・私は武装神姫です。バトルに重きを置いていると自負しています。なのにこんな実力では・・・」 トレーニングの増加を進言した私、何も判っていませんでした。 「確かにお前はバトルをメインで考えていた。でもな、その前に体壊したら本末転倒だろう」 「・・・」 言葉を返しはしませんでした。でも表情に表れていたようで。 「なら3日だ。3日だけ試させてやる」 「ありがとう御座います!」 困った表情のご主人が印象的でした。 それから3日間、私はお勤めを休みトレーニングに明け暮れました。 格闘技、投擲、射撃。全ての武装を片っ端から使い的を射るだけのものです。それでもほんの少しは武器の特性を覚えては行きましたがとても効率的とは言えないものでした。簡単に言ってしまえば無駄骨です。何か一つを極めんとしていれば結果は変わっていたかもしれませんがその時は只「覚えれば使える」と勘違いしていたのです。 約束の期日が過ぎいよいよバトルとなった土曜日。 「勝ってきます」 「・・ああ」 あれ程の修練をしたのだ、負けるわけがない!そう思っていましたよ。 でも現実は厳しかったですね。 たった一撃、しかも有効打とは言い難い攻撃が当たっただけでした。 終った・・・・ 私はリセットされるのだろうと覚悟しました。オーナーの意向に背きこの有様では言い訳もできません。 「ま、気にするな」 ご主人の言葉に気遣いを感じましたが私はもうダメでした。 テーブルの上へたり込み宙を傍観していましたっけ。 私は勝てないんだ。努力してもダメだった。もうバトルはしないでおこう。そんな事ばかりがAIを埋めていきました。 その時です。あの方にお会いしたのは。 「お前さん。一歩って小さいと思うかい?」 湖幸さんです。 それ以後は以前お話した通りです。 師匠の教えに今までを思い返し反省しましたね。そして皆さんに謝りました。穏やかに微笑まれる皆さんを鮮明に覚えています。 「あの時は本気で焦ったな。ここまで思い詰めるとは思わなかったし」 「お恥ずかしい限りです。今思い出すと・・・いえ、恥ずかしいので止めておきます」 カラカラと笑うご主人。私は赤面して俯きます。なんで恥ずかしい事とかって忘れないんでしょう? 過去の話に花を咲かせ、笑ったり、照れたり。何気ない会話を楽しみ続けました。 日が傾き始めた頃私達は神社へと戻ります。 夜はお祝いと豪勢なお食事を頂きました。何とも恵まれ過ぎな自分が申し訳ない気がします。 今年で二回目の私の誕生日、より絆を感じれるこの日、とてもとても幸せでした。 「でも忘れてたけどな」 「ぁぅ~」 現在装備 巫女服 ×1 仕込み竹箒 ×1 玉串ロッド ×1 御籤箱ランチャー(改) ×1 灯篭スラスター ×2 リアユニット賽銭箱 ×1 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1002.html
ep01 飛鳥ちゃん誕生 ※このシリースには今後18禁の描写が出てきます 『私』の意識が覚醒する 今まではセットアップ用のプログラムに支配されていたが、それは役目を終え、本当の私が起動する 目の前には20台前半くらいの男の人がいる この人が私のマスター これから長い神姫道を一緒に歩むパートナー …もうちょっとカッコイイ人がよかったな… 等と考えてもしょうがない 私の使命はこの人に勝利を捧げる事 間垣海洋研究所がその技術の総てを結集させて作った私には雑作もない事だ 「…あれ?おかしいな?」 …っと、ちょっと考え事をしすぎたようだ 私は『私として』の初めての言葉を、目の前の人にかける 「おはようございます、マスター」 「あ、動いた。よかったぁ~」 どうやらいらぬ心配をかけてしまったようだ 「それではマスター、私に名前をお与え下さい」 「名前はもう決めてあるんだ。君の名前は『飛鳥』だ」 「アスカ…了解しました。この名に恥じぬよう、マスターに尽くしたいと思います」 「そんなに気張らなくてもいいよ。ウチはマッタリ派だから。あ、勿論バトルしたいってならちゃんとサポートしてあげるよ」 「ご安心下さいマスター。必ずやこの最新型の私がマスターに勝利の栄光をもたらして見せます」 「こら飛鳥、バトルってそんなカンタンなモンじゃないぞ」 「大丈夫です。この飛鳥、セイレーン型の誇りに賭けて必ずや…」 「ちょっとまて飛鳥、今なんつった?」 「はい、大丈夫です、と」 「いやその後」 「セイレーン型の誇りに賭けて…」 その言葉を聞き、バッと私が入っていた箱を掴み、パッケージを見る 「…しまったぁ」 「…何か問題でも?」 この慌てぶり、一体何があったのだろうか? 「いや、大したことじゃない、大したことじゃないんだが…その…スマン」 いきなり私に謝るマスター 「何か不都合でも?」 「いやその…ずっと「鳥型神姫」だと思ってたもんで、鳥っぽい名前付けちゃった…」 「はい?」 「すまん!今までみてた掲示板だと、ずっとエウクランテの事を鳥子って書いてたもんで!」 ちょっとショックを受ける私 「まー許してあげてよ。コウちゃん、良い名前ないかなーって、ずっと考えてたんだから」 不意に別の所から女の子の声が聞こえてきた しかしこの部屋にそれらしき人影は見えない 「あっ、こら美孤、急に出て来るんじゃない」 ひょこん 物陰から現れたのは小さな小さな女の子-神姫であった 「えへへー、あたしの名前は美孤。よろしくね、飛鳥ちゃん。わーい♪可愛い妹が増えた~」 スっと手をのばしてくる彼女 -データベース照合- 彼女はマオチャオ型神姫と判別 フリフリのドレス-メイド服と言ったか-を纏った、ごく普通の神姫のようだ 「飛鳥、でいいです。私も貴方のことをミコと呼びますから」 「ふえ?」 「私はマスターに勝利を捧げる為にここに来たのです。貴方の様な愛玩用神姫とは違うんです」 「こら飛鳥!姉に向かってその暴言はなんだ!」 マスターが怒りの声を上げる 「申し訳ありません、マスター」 私はマスターに謝罪した 「…謝る相手が違うんじゃないか?」 「いいよ、コウちゃん。私は気にしてないから」 ニッコリと微笑みながらマスターを宥める美孤 「…どうしたんですか、ご主人様?」 ヒュゥと軽い音を立てて一体の神姫が飛んできた -データベース照合- アーンヴァル型神姫と判別 標準的な武装を付けた神姫のようだ こちらはバトル用なのだろうか? 「あのマスター、こちらのかたは…?」 「初めまして、私はアーンヴァル型神姫のエアルといいます」 マスターが答えるよりも早く、彼女が答えた 「エアル、さんですね、私は飛鳥といいます。以後宜しくお願いします」 「…なんか随分、美孤の時と態度が違うな…」 「それよりエアルさん、この家のバトルトレーニング施設はどこにあるのでしょうか?」 「あ、えっと…」 チラっとマスターの方を見るエアル マスターははぁーっとため息を付きながら 「しょうがない、エアル、案内してやってくれ」 「解りました。では飛鳥さん、行きましょう」 私はエアルと共に、訓練施設へと向かっていった 「はぁーっ、なんか大変な娘みたいだな」 「でもコウちゃん、素直な子みたいだよ」 「しっかし、お前のことを完全にバカにしてるぞ」 「別に気にしてないよ?」 「ははっ。もしお前の実力を知ったら、さぞかし驚くだろうな」 「うーん、やっぱ少し心配かな。自信があるのは良い事だけど、なんか自分の心に嘘付いてるみたいだから」 「どういうことだ?」 「武装神姫はこうじゃなきゃいけないって思ってるみたい」 「といっても、言って聞きそうもないよなぁ…」 「ふふ…そんな時は、コレで語るんだよ」 そう言って、グッと拳を掲げる美孤であった
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1790.html
無頼10「インターミッション」 「たこ焼8個入りに…たいやき2つ」 今日で夏休みも終わる。 何だかんだでいろいろあったここ最近。 思えば、6月上旬にヒカルが来たんだよなぁ…。 はじめは"神姫に対してあまりいい印象が無かった"。 なぜかって? 世のニュースは頭の固いコメンテーターが言いたい放題言ってやがる。 興味のない事は聞き流す事にしているとはいえ、これは物語初期の考えを決めつけるものとなった。 そう、神姫はあまり好きじゃなかった。 …でも、ヒカルと過ごす内に、その考えは変わっていった。 "たとえサイズが違い、機械仕掛けでも、神姫は人間と同じ"と思うようになった。 そしてジーナスも加わり、今に至る。 「形人、どうしたの?」 「いや、なんでもない」 ちょっと心配そうな顔でヒカルがこちらを見る。 こいつも始めのころに比べて、ずいぶん凛々しくなったなぁ…。 気のせいだと思うが。 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 近くのベンチに座り、たいやきを取り出す。 「うぐぅ」が口癖の少女が通る訳もなく、生暖かい風が吹くだけである。 「形人…(きらきら)」「はいはい、たこ焼きだろ?」 たこ焼をヨウジごと渡す…が、ウェットティッシュの類は持ってきてないぞ? 「では、いただくか」 あの店のクリームたいやきはうまいんだよなぁ。 ではあー… ぶぅぉんんん…!(ひゅん!)「ひゃっ!?」 「何だッ!?」 「わたしのたこ焼き…あ!、あれ!」 ヒカルが指差した方向に佇む小さな影。 流線形を描くカウル、上から見るとAの字に見える特殊形態。 そして真紅のボディに胸元があらわなボディスーツの少女。 オーメストラーダ製ハイスピード型武装神姫、"アーク"だ。 そいつがヒカルのたこ焼きををかすめ取ってったのだ。 「へっへーんッ。…あむっ」 予想はついていたが、コイツ…食べ始めやがった。 「ああーっ!? わたしのたこ焼きーッ!?」 「ケチケチしなさんな、あと7つもあるじゃないか」 「至福の時を邪魔されたのに腹が立つんだこの野郎ッ…!!」 ヒカル、口調が変わってるぞ。もしかして素か? 「こらリック! 何をしてんだ!…あれ?」 「!!」 声のする方を振り向く。…が、そこで僕はしばし硬直した。 「あ…あれ…? 君はもしや…」 癖のある紅髪、それをポニーにしている黒いリボン。 つりあがった眼尻に、首から下げられた羽ペンダント…。 黒服に身を包んだその姿に、僕は見覚えがあった。 「…け、形人か…?」 「…ひ、飛竜。飛竜一深(ひりゅう かづみ)か? もしかして…」 その直後彼女に体当たりをされ、一瞬意識が飛んだ。 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 「いやぁ、ホントに久しぶりだなぁ…!」 「だからっていきなり気絶しかねん勢いでぶつかるな」 「いーじゃないのさ、そのくらい」 ここで紹介をしておこう。 彼女は"飛竜一深"、…小学校時代の親友だ。 「…その表現、"恋人"に格上げして…くれないかな?」 「「!!?」」 さらっとすごい事を言われた。 クラっとくる言葉を自重なしで言い放つのは昔からだが…、まさかそんな事が…。 「念のため聞くが、それは冗談だよな?」 「いや…本気で言ってる」 「マジで?」 「マジ」 ………どうしよう風間、こんな事は予想外だ。 「ねぇ! 何故わたしのたこ焼きを狙ったの!?」 "リック"の襟元をつかみ脅迫まがいに問い詰めるヒカル。 「いやさぁ、ただからかっただけじゃないの。何もそこまでムキにならなくても…」 目をそらすリック、ほんの出来心がここまでひどくなるとは思ってなかったのだろう。 「…で、どこの高校に行くんだ?」 「画龍高校1年A組」「僕んとこかよ!?」 信じられん、何か仕組んだか? 「そんな訳ないじゃん」 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 「んじゃ、また明日」「たこ焼美味しかったよ~」 そう言って嵐(一深)は去って行った。 「形人…、あの人って…」 「自称・恋人、か…。頭いてぇ…」 「いいではないか! 押しかけ女房は萌えるぞ!!」 「ってなんでお前がいる光一!!?」 「通りかかったら偶然見つけて、おどかそうと隠れていたらだな…」 そうゆう問題かっ!? ていうか、何を言ってるんだお前は? 「にゃ~はたいやき食べたいにゃ」 「そういえば忘れてた…(呆)」 流れ流れて神姫無頼に戻る トップページ